「アメトーーク!」でプロレスにちょっと興味を持った人に名著「僕たち、プロレスの味方です」を読んでもらいたいという話

 2013年5月23日、テレビ朝日アメトーーク!」で、「今、プロレスが熱い芸人」が放送されました。まさにいま現在進行形で面白くなり続けているプロレスという現象を取り上げた内容であり、この放送をきっかけとしてプロレスにちょっとだけ興味を持った方もいるかもしれません。というか、いるでしょう、いますよね? 勿論この放送を観て今日からいきなりプロレスファンになりました、っていう方はそんなに多くはないだろうとは思うんですけど、誰かに誘われたらプロレス行ってみようかな?って人がいたらそれはとても素敵なことだし、プロレスって面白いのかもな、って、ちょっと思ったりしてないですか? 思ったりしててほしいんです。プロレスって、面白いので。

 でも、やっぱりプロレスって、何だろう、ちょっと敷居が高いじゃないですか。興味があるからって、いきなりチケット取って会場行くのとかちょっと怖いじゃないですか。そもそもどこに行けばプロレスやってるのかっていうのもよく分からないでしょうし。「アメトーーク!」とかお笑いは好きで、お笑いとプロレスが親和性が高いのってなんとなく分かるけど、でもいきなりプロレス観に行くのはちょっと出来ないなあ、って人って、たぶん結構多いと思うんです。プロレス会場に行く前に、もうちょっと背中を押してほしい、そんな気持ち、分かります。そしてそんな人に自信をもってお薦めしたいのがこの商品!

 ユリオカ超特Q・ケンドーコバヤシ著「僕たち、プロレスの味方です」

 ちょっと前に出た本なので書店では見つけにくいかもしれませんが、インターネット時代なのでamazonならワンクリックで(在庫切れてなかったら)お手元に! いまamazonのレビュー読んだら評価欄が微妙な感じでしたけどそんなこと気にする必要なし! こんなレビュアーよりもぼくの言うことを信じてください。これは星が100個ついてもおかしくない、そんな星のつけ方をしたら10年もつ体が3、4年しかもたなくなるかもしれませんが、しかしそれくらいには面白い名著なのです。プロレスを好きでなくてもお笑いが好きな人には絶対的にお薦めできるし、それ以前に、何かを突き詰めて考えるということには意味と意義があると信じている人になら自信をもってお薦めできる超名著です。本当に。嘘だと思うなら読んでくれ!って感じです。

 プロレスに限らず、映画でも、音楽でも、お笑いでも、アイドルでも、どんなジャンルでもそうだと思うのですが、何かを突き詰めて考えると決めた時点で、そのジャンルと人生は否応なく重なり合うことになります。ジャンルが人生に影響を与え、人生がジャンルを追いかけ、その二つは分けることが出来ないほどに混じり合います。ジャンルを推すということはたぶんそういうことです。人生で起こること、たとえば苦難や絶望や悩みは全てそのジャンルの中で既に起こっているから、それをヒントにして解決策を考えることが出来る。あるいはジャンルで起こった何かの出来事について考えを巡らせることで、自分の頭の中だけでは思いつかないような真理に辿り着いたりする。そうやって、極めて個人的な人生体験とジャンルが重なり合うから、ジャンルを推すということは好きとか趣味とかではなく、実際に意味と価値を産むことになります。

「僕たち、プロレスの味方です」は、ユリオカ超特Qケンドーコバヤシという二人のプロレス者がプロレスを語っている本ではありますが、この二人は好きとか趣味とかではなくプロレスそれ自体を推している、というか推すことを決めている二人なので、語っている言葉は確かにプロレスのそれなのですが、結果として人生を語っている、それが素晴らしいのです。そしてそれは、知識としてのプロレスを知らない人にとっても、絶対に心に届く言葉になっています。だからこの本は、プロレスファンじゃない人にこそ読んでほしいし、そういう人にこそぼくはお薦めしたいし、「アメトーーク!」でプロレスにちょっと興味を持った人が何の気なしにポチって、読んで笑って、それでもうちょっとプロレスのことを知ってみたいかも、って思ってくれるととても良いんじゃないかなあと思っているのです。

 たとえばケンドーコバヤシが、プロレスのメディアについて語っているわけです。「週刊プロレス」という雑誌が過激だった時代を楽しんでいたとしながらも、

 これに全乗りしたらあかん。こういう意見もあんねんなって読み方をしないと、いつかマズイことになるんちゃうか。

 という自覚のもと周囲にはライバル誌を薦めていたという話があるんですが、ここには明らかにケンドーコバヤシのイズムがあります。疑う、という、その信念自体を生き様として世に晒すという、実践的なスタイルが語られています。プロレスというジャンルを語っているというフックがある故に、手の内が明らかになってしまっている。プロレスと人生が分けられないほどにプロレスについて考えているからこそ、プロレスを語るということが人生を語るということにならざるを得ない。そしてその上で語られる言葉は、やはり抜群に魅力的だし単純に面白いわけです。

 あるいはユリオカ超特Qが、プロレスというジャンルに少なからず影響を与えた業界暴露本(ざっくり言うと、有名老舗プロレス団体の元レフェリーが「プロレスはショーである」という観点からプロレスの仕組みについて語った本なのですが)について、このように語っています。

 ボクはね、まず自分がショックを受けすぎないように、あの本の中の日付の間違いとかを見つけて、「こんないい加減な人の言っていることは信用できない」って、思おうとしてましたね。

 これは、まあ、笑うんです。「そこが問題じゃねえだろ!」って、突っ込むわけです、読みながら。でも、笑った直後、そうせざるを得なかった彼の姿勢とか、心情とか、そういうのを想像すると、もう、泣くわけですよ。それはだって、他人事じゃないから。誰か大切に思ってる人から裏切られたら、誰だって、どうにかするしかないじゃないですか。そのやり方は自分で見つけるしかない。その整合性が自分の中でしか取れていないのだとしても人はそうしなくちゃいけないし、ここで語られている出来事は確かにプロレスの話なんだけど、でも同時に間違いなく、人生の話なんだと思うわけです。

 で、こんなことを長々と書いてですね、結論として「プロレスは人生なのだ!」みたいなことを、言いたいわけでは全然なくて。そもそもそこが主眼じゃなくて。プロレスを好きじゃないけど興味はちょっとないわけじゃない、みたいな人に何を言うのか、って話なんです。実際、聞かれることがあるわけです。「プロレスの何が好きなんですか?」って。そのたびに毎回、その質問してる人の感じとかを考えながら答えているんですけど、これもう結論として、ないんですよ、そんな答え。というか、その答えが言語化できるんだったら、ぼくもうプロレス観ないんだと思うんですよね。自分がプロレスを好きな理由って、出ないんですよ。そりゃ言葉にしようとするなら色々出せますけど、言葉にすると全部嘘になっちゃうって感じもあって、言えねえだろそんなん、って思うわけです。

 でもそれって、確かに言葉にしにくいから共有が難しいっていう現実的な難しさもあるんですけど、逆に言うと、好きな理由を自分で考えて決めることが出来るってことでもあって、だからプロレスってすごく良いなあって思うんですよ。確かに特殊なジャンルだから、入りにくいってのもあるかもしれないけど、一度入ったらすごく素敵な、ここでしか味わえない瞬間っていうのがすごく沢山あって、それはちょっと、あんまりほかにはないものだっていうのは間違いなくそうなんです。とは言え全部の興行の全部の試合が面白いっていうわけでは正直ないので、ここが悩ましい。プロレスが良い!ってことではないんです。でも、良いプロレスの興行や試合は本当に人生を変えるくらいには良い!っていうのは、経験上、そうなんです。その衝撃がなかったとしたら、こんなぼくみたいにひねくれてる人間がこんなにプロレス観てないので、絶対。

 でも今日、「僕たち、プロレスの味方です」をお薦めしたのは何故かっていうと、少なくともユリオカ超特Qケンドーコバヤシっていう二人の才人が、プロレスを人生を賭して推しているっていう、それを知ってほしいからだったりするんです。その二人がここまで素っ裸になるジャンルって、何かあるでしょ、絶対。何かないとおかしいでしょ。プロレスって、そういう風にして、好きになったら良いものだと思ってるんです。好きな人が本気で好きなものって、やっぱり絶対、何かあるわけだし。んで実際、プロレスって、何かは分からないけど、何かは確実にあるものだし。何かは言語化できなくても、ただ何かはあるっていう、それは間違いなくそうなんですよ。

 ゴールデンタイムでプロレスやってない時代の人がプロレスに興味をもって好きになるって、でも、そういう入り方で良いんじゃないかって思うんです。面白い人が面白いって言ってるから面白いんじゃないか、で入って良いんじゃないかって。実際、自分もそういう風にして入ってるし。山口日昇とか喫茶店トークが単純に文章として抜群に面白いから、その人たちが面白いっていうプロレスって面白いのかもな、で入ってるし、当時会場近辺で売られてた前田アンドレとか鈴木みのるアポロ菅原のやつとか裏ビデオ(VHS)で買って、それ自体は全然面白いわけじゃないけど、その意味を自分で見つけること自体が重要なことだったわけで。だから、プロレスって、あんまり易しいジャンルじゃないっていうのは間違いないと思うんですけど、別に、易しくなくても良いじゃん、そんなの。みんなそうやって入ってきてるんだし。答えなんてすぐないですよ、そんなの、誰の人生がそうであるように。楽な人生過ごしたいなら、楽な試合しか出来ないんですよ。そんなもんです。でもプロレスは、本当に懐が深いので、打ったら打っただけ響く、そんなジャンルなので、すごく面白いし、本当に色んな人、誰かれかまわず、色んな人に興味をもってもらって会場に来てもらえたら嬉しいことです。
 
 最後になりますが、今日の「アメトーーク!」を観て、プロレスに興味をもった人が少なからずいたならとても素晴らしいことです。その人たちに絶対にお伝えしておきたいのは、プロレスは、プロレスファンと一緒に観たほうが絶対に面白い、ということです。周りに誰かいたらその人と一緒に観たほうが良いと思いますし、そういう人が周囲にいないならぼくが行きます。プロレスファンはおおむね頭がおかしいので、あなたの人となりを考えたうえで、オススメの興行に連れて行ってくれるはずだし、その解説も良い感じで行ってくれるはずです。プロレスファンは、その誘いのために日々鍛えてるところもあるので、そばにプロレスファンがいるのなら、話しかけていただきたいと思います。彼は間違いなく、あなたのためにベストな仕事をするはずです。プロレスファンっていう人種は、そういうことをやる奴らです。まあまあ、きしょいですけども。

 やあ、プロレスについて考えたら異常な長文になってしまって、書きながらプロレス観たくなっちゃったんで、近々「ガンバレ☆プロレス」か「我闘雲舞(ガトームーブ)」観ないとおさまらない身体になってしまった。誰のせいだ。まあ、おそらくは、プロレスのせいだ。あいつらは本当、面白すぎることしかやらないんだから、ほっておくことができない。実に難儀な話だ。

 そして、プロレスは続く。このようにして、プロレスは延々、続き続けるのだった。