記録よりも記憶に残るフジテレビの笑う50年 〜めちゃ×2オボえてるッ!〜

 テレビでのオンエアから1ヶ月を超えて、HDDに録画された「記録よりも記憶に残るフジテレビの笑う50年 〜めちゃ×2オボえてるッ!〜」は、相沢の涙腺を華々しく破壊して、バラエティを愛する魂を優しくも激しくわし掴みにした。感覚が激するからテレビなんだ。そこにあるのは理屈じゃなくて、ただただ愛だけだ。それをHDDで録画して見てるのってどうなん、っていう構造的な疑問は置いておくがしかし、この感激を誰かに伝えずにはいられないのだった。

素晴らしすぎるオープニング

 もろもろの前段があって、めちゃイケメンバーたちが倉庫のエレベーターに乗り込んで行く。中居くんがそれを追いかけるが、靴が片方脱げてしまう。それでも滑り込み、脱いだままの靴を残したままエレベーターの扉は閉まるが、そこにタイトルロゴ。これだけでご飯が何杯でもいけてしまうほど、俺はバラエティを愛している。何でこんなに泣けてしまうのか? この無駄さは、何でこんなに美しいのか? この感動は確かに技術に裏打ちされてるんだけど、でもその技術は、必要だから育まれたんだって信じずにはいられない。

 だって番組名のサブタイトルが「What A SUPER MEMORY we have!」なんですよ。そんな素敵なサブタイトルってないでしょう? リスペクトとか、敬意とかじゃなく、単純にそれは愛だ。バラエティを愛しているから、あまりにも愛し過ぎてしまったが故に、バラエティを作ることを仕事にせざるを得なかった不具者たちの祭りがバラエティだ。このサブタイトルを聞いて何も思わない奴と、俺はもう話ができない。

笑福亭鶴瓶という男

 鶴瓶との電話はもう、聞いてて途中から涙が止まらなかった。本当に。突然夜中に電話をかけられて、「テレビは分からん…」っていう本音を、生き様を剥き出しにするって手法こそが、バラエティなんだ。こんな大ベテランが本気で悩んでるっていう姿を見ることが出来るなんて、やっぱりどうかしてるんだよ。<どうかしてる>からこそ、テレビは面白い。最後にファックスの光に大声をあげるところまで含めて、これはもう、俺が全財産を鶴瓶師匠に譲ったとしても嫁に文句は言わせない。

名言というにはあまりにもな名言たち

 笑福亭鶴瓶の「濱口怒ってんねやったらちゃんとせなあかん…」という言葉と、ガチャピンの「チャレンジはボクの代名詞!」っていう言葉は、後世に語り継いでいかなくてはいけない名言だった。特に後者は小学生の教科書に載せるべきだと思う。自分の座右の銘は今後「チャレンジはボクの代名詞!」にしたい。この言葉には全てが詰まっていて、他に足りないものなんてないだろって真剣に思います。

中居くんのかくし芸に関して

 とは言えやっぱり一番感激したのは、中居くんのずいぶん昔の「かくし芸」の映像の振り返りだった。それこそこの流れは、記憶に残してしかるべきテレビ史上に残る名場面だった。

 過去の映像の振り返りの中で、かつてSMAPが「かくし芸」に出演した映像が流れる。他のメンバーが華麗な演舞を見せる中、大トリの中居くんがスイカを蹴りで割るって流れになっていたところ、中居くんは失敗してしまう。うつろな表情でコメントを残す中居くんが、その年の「かくし芸」にはいた。

 ここからが大事なところだ。この番組は、それを、笑いにしたんだ。本当に凄いことだ! 想像でしかないんだけど、中居くんはこの出来事を、当時本当に死にたくなる記憶として抱いたんだと思う。だって自分がその立場だったらあり得ないだろ? 誰もが知ってる国民的番組の中で、本気で絶対努力してるし、それでも失敗してしまう。それが全国のお茶の間のブラウン管で放送される。普通の精神だったら耐えられないよ。もし自分がその立場だったら、100%死にたくなってるのは間違いない。

 でもこの番組は、その負の思い出を、笑いにした。肝心なのは、その負の思い出を、笑いにしようって決めたことなんだ。つまり逆算だ。これを笑いにするためにはどうする?って制作側は考えたし、実際にそこに向けて手を打つ。それが伏線だ。ここに至るまでにスタードッキリの振り返りをちゃんとやって、その系統としてみなさんのおかげですでのノリさんの映像を出して、マンボNo.5を流しつつの編集笑いっていうのをしっかり見せておく。その伏線を踏まえた上で、中居くんの失敗を笑える映像として出す、っていう正解が見つかる。これって本当に凄いことだし、どんだけ男前なんだお前、って俺は番組の制作側に対して真剣に思ってしまう。

 さらに、オチもつける。駄目だなと思うことが向上心、的なセリフを過去の中居くんの番組の台本から見つけてそれをオチにする。これってもう、台本なんですよ、完全に。その台本は間違いなく計算によって書かれてるわけだけど、でもその台本が書かれるまでには、中居くんのかくし芸の失敗だったり、意識せず書かれてる過去の番組台本のセリフだったり、そういう数々の偶然が必要とされている。

 俺は、お笑いとプロレスとアイドルを愛してるんだけど、全部同じ目線で愛してるんですよ。この三つのジャンルって要は、人が意識して努力することで奇跡が生まれる瞬間が見られる、ってところが素晴らしいというか。ジャンルには歴史があるから、色んな偶然が既にある。それを見た上で、取捨選択して、物語っていう名前の奇跡が創り出されるからこそ、相沢はお笑いとプロレスとアイドルを愛さざるを得ないわけですよ。

 中居くんという一人の超VIPの完全なるトラウマが、笑えるものとして全国のお茶の間に発信されてるっていうのは、偶然じゃない。必然なんです。そこには作り手側の意識と努力があったし、それってたぶん、無茶苦茶凄いことなんだよ。奇跡は起こるものじゃなくて、起こすものだっていう、それが真理であるお笑いとプロレスとアイドルってジャンルはやっぱり素晴らしいって、俺は真剣にそう思います。

「芸人とプロレスラーは過去のマイナスを一気にプラスに変えることができる仕事」っていう水道橋博士の名言があるんだけど、その名言を完璧な形として世に出した作品として、この番組は傑作として語り継がれるべきだと思う。だってどんな失敗したって将来はそれが笑える対象になるなんて、それ以上に有効な希望なんてないわけじゃん? 何をやったっていつか笑えるなら、こんなに心強いことなんて他にないだろ、実際。それが分かっただけで、生き方が変わる。バラエティって、誰が何と言おうと、最強なんだよ本当に! ちゃんと聞いてんのかお前?

総括

 バラエティってものを一言で言うと何になりますかって問題が試験で出たなら、たぶん相沢は「プロの悪ふざけです」って答えると思う。プロフェッショナルイズムと悪ふざけイズムが同時にないと絶対に成立しないんだけど、でもそれが同時に成立したときには確実に奇跡を生み出すことができるから、やっぱバラエティって本当に素敵だなって思います。あと良い番組って制作とプロダクション含め、視聴者に対して共犯意識を強いてるんだよな。それはすげえ大事なことだわ。視聴者として感激したし、同時にものすごく勉強になった、そんな番組でした。

 結論として、相沢はバラエティを愛しています。それはもう、そういうことなので、宜しくお願い致します。