佐々木俊尚「2011年新聞・テレビ消滅」

 佐々木俊尚「2011年新聞・テレビ消滅」
 ISBN:4166607081
 
 この辺のことを考えるうえで自分が前提として置いていることが一つあって、それはつまり、金銭と交換可能な全ての商品に対して適正価格っていうのは相対的に決定されるってことなんですよ。たとえば今、ぼくは伊集院光のラジオを聴きながらこれを書いてるんですけど、ものすごく面白いわけですよね。しかも自分は思春期のころから伊集院光を愛している。でもこのラジオ番組が何円に相当するのか?って言われちゃうと答えに詰まっちゃうんですよ。え、だってタダだし、ってことしか言えない。いくらまでなら払える?って質問されたとしても、それって仮定の話だからよく分からないんですよね。

 で、新聞とかテレビってのもそうなんですよね。新聞の情報量が月々いくら相当かなんて、決められないんですよ。でもまあ、かつて新聞ってのは読んでおかないといけないものだったから、みんなお金を払って読んでましたよと。でも意外とそうでもねえなってことに気付いたからみんな新聞を取らなくなっただけの話で、みんな読んでるなら月1万円でも払うんですよね、たぶん。だから新聞各社は協力して、公共広告みたいな形で「新聞を読まないと白痴になります」ぐらいのことは言えば良いと思うんです。白痴になりたくないなら人はお金を払いますよ、間違いなく。

 さらに言うと、テレビってタダなんですよ。やっぱりこれってすごいことだと思うんです、実は。ガキの使いアメトーーク!マツコの部屋もしゃべくり007もめちゃイケも、全部ものすごく面白いんだけど、それに対して我々は一銭もお金を払ってないっていう、そんなのやっぱりすごいことですよ。テレビCMの構造っていま完全に批判される側だけど、正力松太郎がいなかったら上にあげたテレビ番組は存在しなかったんだから、本当に尊敬すべきだと思うんですよね。

 でも、テレビのCMスポットっていう構造は完全に壊れましたよと。じゃあどうすんのか? どうやって制作費を作っていくのか?

 道は二つだ。プラットフォームとなるか、それともコンテンツ提供者と割り切るか。

 後者の考え方ってすごく分かりやすくて、いいものは金を払ってくれるじゃん、っていう資本主義性善説に乗っ取ってるとは思うんですけど、そもそもそんなん成立するわけないと思うんですよね。それが成立する番組は確かにあるかもしれないけど、でもそれってテレビの本質じゃねえんじゃねえか?って思うんですよ。言っちゃえば、テレビ番組、なんてものはコンテンツじゃないんですよ。暇つぶしだから。本当に、ネットと一緒ですよ、ただテレビには前例として正力松太郎電通がいたってだけの話だから。そもそもテレビなんてビジネスとしてはまやかしなんだから。後者が成立するんであれば、Gyaoミランカも絶対ビジネスとしてうまく運営できてるはずだし。

 じゃあ前者なのか?っていうとそれもまた微妙で、だってiPhoneとかセットトップボックスで見るテレビなんてテレビじゃねえだろ?って気もするんですよね。それはそれとして新しい文化として生まれるのかもしれないけど、でもそれってやっぱりテレビじゃないんですよ。だから結局テレビの人たちがやらなきゃいけないことっていうのは、どんだけお金をテレビに持ってこれるのか?ってことでしかないと思うんですよね、たぶん。

 おそらくここから5年ぐらいは完全にテレビの過渡期になるはずなんですけど、でもまだテレビがやってないことっていうのは結構あって。具体的に言うと、たぶん委員会方式の番組は増えて行くのは間違いないと思うんですが、そこに他業種が絶対に絡んでくる。これは間違いない。単純なテレビスポットではなく、インフォマーシャルでもなく、特にアパレルとか小売店とか食品とかが出資者としてテレビ番組に入り込んでくる時代が絶対に来ますよ、ここ2年ぐらいは。特にドラマとかはそうなると思うんです。この予想が当たったら褒めてほしいんですけど。

 問題はバラエティだと思うんですよね。日本のテレビバラエティって本当、完全にテレビのCMスポットの構造があったからこそここまで進化したガラパゴスコンテンツだと思うんですが、これがどうなってしまうのか。これは本当、テレビ局の気概ですよ。今はまだいい。テレビの人がテレビ局にいるから。でも10年後、20年後ってテレビの人はテレビ局にいないですからね。バラエティ番組が全然存在してない世の中とかってあり得るわけで、それってどうなんでしょうか、っていうのはやっぱり思うんですよね。

 まるっきり要領を得ない上に解決策も自分が持っていないので、ピクサーの人の名言を引用してこの日記を終えます。「カールじいさんの空飛ぶ家」に関して。

完成まで5年、数え切れないほど試写会を開き、観客の感想を聞きながら作り上げたためだ。「『最悪』『これはひどい』と言われるたび監督のピート・ドクターと頭を抱えたよ」と振り返る。
プライドは傷つかないのかと尋ねると「必要な過程だからね。今、何を生み出せるかが最も重要なんだ」との答えが返ってきた。

 バラエティも、全然一緒なんですけどね。難しい時代ですよ、本当に。だから面白いとも思うけど。