「みっつ数えろ」第八戦・第九戦補足 〜「みっつ数えろ」が選ぶネットプロレス大賞2013〜

 2013年12月25日、有料メールマガジン水道橋博士のメルマ旬報」にて拙作「みっつ数えろ」の連載第九戦が配信されました。みなさまお読みいただけましたでしょうか。今回と前回は、「みっつ数えろ」の現在の主要3名が選ぶ「ネットプロレス大賞」を考えてみました。今回は解説というのも何なので、というか「みっつ数えろ」連載本編の中で言いたいことは全て言い尽くしているため、ここでは結果だけ転載してみます。

 この結果を読んでいただいて、こいつとはなかなかうまい酒が飲めそうだと思っていただいた方がいらっしゃいましたら、是非ご購読のほど、こちらのページからお願いします。「みっつ数えろ」とはざっくり言うと「女子高生がプロレス部を設立しようとするが、危険すぎるという理由で学校から却下され、その代わりに演劇部を設立して演劇だと言い張りながらプロレスを行う」というお話のマンガ原作です。プロレスを知らない人でも楽しめるようなわりと真っすぐな青春ストーリーとして書いてるつもりですが、そうでもなかったら申し訳ございませんということで、何卒。

 なお、ネットプロレス大賞2013の投票はこちらのページから。プロレスファンの方は一年を振り返るきっかけに、そうでない方は「今こんなのが盛り上がってるんだ」というプロレス入門のきっかけに。プロレスについて考えるということは、とても楽しいことなのです。

 それでは以下、「みっつ数えろ」が選ぶ、ネットプロレス大賞2013の各賞です。

<MVP>
第1位:渕正信
第2位:飯伏幸太
第3位:マサ高梨
次点:DJニラ

<最優秀試合>
第1位:2013/08/04 新日本プロレス大阪府立体育会館中邑真輔vs飯伏幸太
第2位:2013/07/17 ゼロワン(後楽園ホール) 星川尚浩vs丸藤正道
第3位:2013/10/20 DDTプロレスリング後楽園ホールアントーニオ本多vsスーパー・ササダンゴ・マシン
次点:2013/06/30 全日本プロレス両国国技館) 諏訪魔vs秋山準

<最優秀タッグチーム>
第1位:ヤンキー二丁拳銃(木高イサミ宮本裕向
第2位:佐藤光留坂口征夫
第3位:中邑真輔YOSHI-HASHI
次点:重鎮(2013/10/17 センダイガールズ・後楽園ホール

<最優秀興行>
第1位:2013/05/04 我闘雲舞 板橋グリーンホール
第2位:2013/07/28 全日本プロレス 後楽園ホール
第3位:2013/10/14 ビアガーデンプロレスin札幌 札幌テイセンホール
次点:2013/08/18 DDTプロレスリング 両国国技館

<最優秀団体>
第1位:我闘雲舞
第2位:DDTプロレスリング
第3位:全日本プロレス
次点:新日本プロレス

<新人賞>
第1位:福田洋
第2位:夕陽
第3位:赤井沙希
次点:「ことり」

<最優秀マスメデイア>
第1位:みっつ数えろ(「水道橋博士のメルマ旬報」連載)
第2位:我闘雲舞メールマガジン
第3位:「KAMINOGE
次点:徳光康之「ファイヤーレオン」(「月刊ブシロード」連載)

 各賞の選考理由は「みっつ数えろ」本編で語ったのでここでは割愛して、総括的なところを。何と言っても2013年は、自分にとっては我闘雲舞の年でありました。正直なところ去年1年間はわりとプロレスから離れている部分があり、と言いつつ気になる大会には足を運びサムライもちょいちょい観てはいましたが、2010年にマッスル坂井選手が、2011年に澤宗紀選手とディック東郷選手が去り、どこか心に穴が開いてしまったのが2012年でした。

 そんな中、2013年5月4日に板橋グリーンホールで開催された我闘雲舞興行。これがぼくにとって我闘雲舞の初観戦だったのですが、まあちょっと本当にどうかと思うくらいに面白くて楽しくてハッピーで。そうだよ!プロレスってこんなに楽しいんだよ!って、誰かれ構わずその場にいるみんなと手を叩きたくなるあの感じ。好きなものを好きでいさせてくれる、こんなに好きなものをもっと好きにさせてくれる、そんな団体がいま現在活動しているってことが嬉しくて仕方ないのです。

 我闘雲舞の素敵なところっていうのは沢山あります。でも何と言っても、リングに上がっている誰もがプロレスを大好きで、プロレスを信じていてくれる、彼らの一挙手一投足で、それが観客席にいる自分に伝わってくる。好きなものを好きで良いんだと、もっと言えば、自分は自分で良いんだと、自分の好きなものや生き様やそのやり方は自分自身で決めて良いんだと、そう思わせてくれるところです。

 プロレスは、エンタテインメントの興行です。ぼくらにとっては、お金を払って観るものです。でもそれは現実逃避なんかじゃない。目の前にあるこのリングと、リングの上に立つプロレスラーは、ぼくらの人生とそのまま続いている。プロレスラーがリングの上で表現できることは、それが人間のやっていることである以上、プロレスファンのぼくらが自分たちの人生で表現できることです。我闘雲舞にはそれがある。プロレスファンであることを誇らしいと思わせてくれる。我闘雲舞が素敵な興行をやってくれるあいだは、ぼくもぼくの人生を目一杯頑張れる、我闘雲舞はぼくにとってそういう団体です。ありったけの感謝を。そして2014年も、何卒宜しくお願い致します。

 それでまあ、言ったらこういう種類のプロレスファンが「みっつ数えろ」の連載を始めたのが2013年。本当にありがたい限りです。でもまだ、やっぱり全然足りてない。第九戦で日々野瞳が「くたびれたり、あきらめたりしてる場合じゃねえんだよ。俺らには、挫折する資格なんてねえんだよ!」って、中島らも前田日明に送った言葉を叫んでましたが、実際、その通りなんです。2014年は、「みっつ数えろ」も、もっと頑張ります。目の前に素敵なプロレスがあるんだから、どうってことねえよ!

 あと、補足として、基本的に観戦した試合の中から選んでいまして、どうしても今年タイミングが合わずに一度も観戦できてない「ガンバレ☆プロレス」が入れられなかったのは、心残りです。2014年は絶対にどこかで観戦したいと思っていますので、大家健選手がもしこれを読んだとしても、怒らないでいただけるとありがたいです。

 それではまた次回。まだ「水道橋博士のメルマ旬報」読んでおられない方で興味もっていただいたなら、ご購読はどうぞこちらのページから。以上、「みっつ数えろ」第八戦・第九戦の、お粗末ながら解説でした。エレガントに、さよなら。

「みっつ数えろ」第七戦解説 〜プロレス用語解説シリーズ〜

 2013年11月25日、有料メールマガジン水道橋博士のメルマ旬報」にて拙作「みっつ数えろ」の連載第七戦が配信されました。みなさまお読みいただけましたでしょうか。今回は「みっつ数えろ」第4のメンバー、源五郎丸めぐみ選手の紹介というか、普段は強気な彼女が背負っているものについて書いてみました。仲の良い「演劇部」の三人の練習風景と、孤独を甘んじて受けるめぐみの対比っていう、これはもうテクニックですよね。オーソドックスなレスリング技術を駆使してね。で、またそこでめぐみの執事の西園寺が、良い仕事するなー、っていう。いやもうね、「みっつ数えろ」、すっごい好きだわ、俺。

 さてここからは、本日配信の「みっつ数えろ」を読んでいないとまるっきり意味が分からないエントリになりますので、ご購読はこちらのページからお願いします。「みっつ数えろ」とはざっくり言うと「女子高生がプロレス部を設立しようとするが、危険すぎるという理由で学校から却下され、その代わりに演劇部を設立して演劇だと言い張りながらプロレスを行う」というお話のマンガ原作です。プロレスを知らない人でも楽しめるようなわりと真っすぐな青春ストーリーとして書いてるつもりですが、そうでもなかったら申し訳ございませんということで、何卒。

 で、今回は色々とプロレス用語というか、プロレスを全然知らない人にとってはよく分からないことが沢山出てきてしまったので、その辺りを解説させていただきます。

【みやび「(略)場外乱闘のときにお客さんを守るのも、プロレスラーの大事な仕事だぞー」】

 プロレスの興行において、場外乱闘、つまり観客席にプロレスラー同志がなだれ込んでそこで殴り合いを始めるということはよくあるのですが、そういった際、お客さんを守るのはその試合とは関係のないプロレスラーだったりします。プロレスラーはとても強いので、お客さんを守るためには身を呈する必要がある。それが出来るのはプロレスラーだけです。普段から鍛えていて、攻撃に耐えられなくては、お客さんを守ることが出来ないのです。

 プロレスを好きになると、そういう、リング外でのプロレスラーの動きをよく見るようになりますし、そこで全力を出している選手のことを好きになる。場外乱闘が始まった瞬間、会場全体に目をやり、誰がどう動くのかを気にするようになります。今回、札幌プロレスフェスタの話が出てきてますが、自分は現場で観戦していまして(プロレスを観るためだけに北海道に行ったのですが)、そこでの関根龍一選手とマサ高梨選手が本当にかっこよかったのでまた好きになってしまいました。場外乱闘が始まった瞬間、駆け出すあの男の様は実に良いものです。その場にいる全員が興行を良くしようと思っているから、プロレスの興行は素敵な愛に溢れている。

 そして、観客もまた、その興行の一員でもあります。だから、場外乱闘が始まったら、逃げる準備をしましょう。大きな荷物はなるべく会場に持ち込まないように。どうしても持ち込まなければいけない場合は、いつでも逃げられるように抱えていなくてはいけません。これは、プロレス観戦における、最低限のルールなのです。

【みやび「(略)ヒデオ・サイトーは1日1時間までっていつも言ってるだろ!?」】

 ヒデオ・サイトーというのは、新日本プロレスの平沢光秀選手がちょっと前まで名乗っていた選手名です。プエルトリコで修行して、帰ってきたら、そんな選手になってしまっていました。プエルトリコの亡霊に取り憑かれていたのが原因だそうですが、過去の記憶を失ってしまい、常に心神喪失状態の選手でした。こういうことは、プロレスにおいてたまに起こります。誰一人として望んでいないことが起こり得るジャンル、それがプロレスなのです。現在は、ヒデオ・サイトー選手はこの世界には存在しておらず、キャプテン・ニュージャパンというヒーローとしてリングに上がっています。それはそれで、色々とあれなのですが。

源五郎丸姉妹の下の名前について】

 「みっつ数えろ」の主要メンバー4人の下の名前は、メロン記念日という伝説のロックンロールアイドルグループのメンバーの名前から取られています。源五郎丸めぐみという名前は、メロン記念日のメルヘン担当、村田めぐみさんから。彼女には二人の姉がいるのだろうと思ったとき、その姉の名前を想像してみたわけですが、プロレス界におけるめぐみと言えば、工藤めぐみです。くどめです。彼女の同期にはバイソン木村アジャ・コング前田薫選手がいます。生まれ順に直すと、工藤めぐみが丁度三番目。

 なので長女は、一番年上のバイソン木村選手の下の名前である伸子、次女は二番目に年上である前田薫選手の下の名前である薫、と命名してみました。じゃあ、アジャはどうなんだ? アジャの本名は宍戸江利花。江利花という登場人物は今度出てくる可能性があるのか? ぼくは知りません。でもまあ、源五郎丸一ぐらいの人物であれば、お妾さんに子どもを産まれてたりしてもおかしくはない。江利花という名前の、源五郎丸の血筋をひく登場人物が今後現れるかどうかは、色々と想像しながらお待ちください。ぼくが忘れていなければ、たぶんどこかで出てくるんじゃないかと思います。

 それではまた次回。まだ「水道橋博士のメルマ旬報」読んでおられない方で興味もっていただいたなら、ご購読はどうぞこちらのページから。以上、「みっつ数えろ」第七戦の、お粗末ながら解説でした。エレガントに、さよなら。

「みっつ数えろ」第六戦解説 〜プロレスに流れや台本はあるのか問題〜

 2013年11月10日、有料メールマガジン水道橋博士のメルマ旬報」にて拙作「みっつ数えろ」の連載第六戦が配信されました。みなさまお読みいただけましたでしょうか。今回からようやく、第四の主要メンバー、源五郎丸めぐみが登場。この「みっつ数えろ」は、四人揃って初めて一人前のアイドルロックグループ、メロン記念日にオマージュを捧げてまくっておりますので、ようやく始まった感。残りの三人が勝手に仲良くなりすぎちゃうので不安でしたが、源五郎丸めぐみはすごい面白い人なので、今後の活躍にどうぞご期待ください。

 さてここからは、本日配信の「みっつ数えろ」を読んでいないとまるっきり意味が分からないエントリになりますので、ご購読はこちらのページからお願いします。「みっつ数えろ」とはざっくり言うと「女子高生がプロレス部を設立しようとするが、危険すぎるという理由で学校から却下され、その代わりに演劇部を設立して演劇だと言い張りながらプロレスを行う」というお話のマンガ原作です。プロレスを知らない人でも楽しめるようなわりと真っすぐな青春ストーリーとして書いてるつもりですが、そうでもなかったら申し訳ございませんということで、何卒。

 で、今回はあゆみとみやびが「プロレス部」の設立に動くという話なわけですが、その中で通らざるを得ない部分が、プロレスに流れや台本はあるのか、まあもっと言ってしまえば、プロレスにおいて事前に試合の結末は決まっているのか?というところだったりします。何度か書いているように、ぼくはそういうのが決まってる前提で、でもだからこそプロレスは凄い、みたいな最近の作品は好きではなく、そこに対しては否定的な考えを持っています。でも、じゃあ実際どうなんだ?と考えると、それはそれで難しい問題だったりもする。

 この回で主人公である暁星あゆみは、こんな台詞を語っています。「流れや結末が決まってるなんて、そんなの全然、プロレスなんかじゃないよっ!」と。あるいは「台本があったらプロレスにならないよ……」と。そして、暁星あゆみの人生最良のタッグパートナーである白百合みやびもまた、その言葉に同調します。彼女たちがそう語っている以上、「みっつ数えろ」のプロレス観とは、そのようなものです。

 確かに、ミスター高橋本や、どうしようもなくその影響下に置かれた我々は、プロレスに結末が決まっているのか?について、考えなくてはならなくなりました。その結果として、「プロレスはショーだからこそ凄い」という考え方が出てくるのも分かる。でも、非常に個人的な考え方として、ぼくはそこには乗ることが出来ない。だって、そんな風にプロレスを観て、未だにこんなにプロレスを観戦し続けて毎回笑顔で帰ることなんて、出来るのか?と思うわけです、普通に。客観的に考えて。

 それで、ぼくは今どういう風にプロレスを観ているのかというと、確かに過去、結末が決まっている試合があったのかもしれない。ミスター高橋が本で書いたことは事実として起こったのかもしれない。でも、会場に行って、生で観ているこの試合が、そうであるとは限らない、と思うんです。仮に過去、あらゆるプロレスの会場で行われたプロレスの試合で事前に結末が決まっていたとしても、今まさに自分が観ているこの試合がそうであるとは限らない。これは判定できないわけですよ。当事者以外は。だから、今行われてる試合の結末が事前に決まってるかは、少なくともリングの上にいない我々が判定できるはずもない事柄なんだと、ぼくはそういう風に考えています。むしろ、そこを前提として、プロレスを観ている。

 そうやってプロレスを観たときに、じゃあ何でこれはこうなんだ、ってことは確かにあります。でもそこを、理屈で乗り越えたいし、プロレスが好きなところってそこなんですよ。考えてる時間そのものが、プロレスの楽しさだったりもして。具体的に言うと「フィニッシュホールドが出ちゃうと返せない問題」とかですよ。なんか、きいてるんだかきいてないんだかよく分からない技でも、それがフィニッシュホールドなら返せないという。でもそれは、結末が決まってるから返せないんじゃないんです。それを返したら、もっとすごいこと、観客を満足させるような技がないなら、やっぱり返せないんですよ、怖くて。だから、結末が決まってるか決まってないかとかそういう問題じゃなく、どちらにせよ、フィニッシュホールドは返せないんですよ、やっぱり、プロレスが、衆人環視のもとで行われてる以上は。

 そういうような理屈が、自分の中には沢山ある。プロレスに結末は決まってない、って信じられる理屈が常にある。だからぼくはプロレスを観るとき、事前に結末が決まってるなんて一切思ってないし、誰が何と言おうと、そういう風にずっとプロレスを観ていくんだと思います。事実がどうだろうと関係ない。プロレスに結末は決まってない。流れや台本もない。そう思って観るからこそ、プロレスは楽しいんだってぼくは思っています。プロレスに対してだけは醒めていたくない。だから、どんなプロレス関係者が、どんなプロレスラーが何を言おうと、関係ないんです。今この瞬間に、目の前で起こっているプロレスの試合の、結末が決まっているわけがない。ぼくはそういう風にしてしか、プロレスを観ることが出来ないのです。

 すごくデリケートな部分だけど、ぼくはそうやって、プロレスを観ています。そしてそうやって、プロレスを観続けていきます。ただのショーじゃなくて、生き様の闘いだから、プロレスのことが大好きなんです。

 それではまた次回。まだ「水道橋博士のメルマ旬報」読んでおられない方で興味もっていただいたなら、ご購読はどうぞこちらのページから。以上、「みっつ数えろ」第六戦の、お粗末ながら解説でした。エレガントに、さよなら。

「みっつ数えろ」第五・五戦解説 〜ジェントルメン中村「プロレスメン」とは何か?〜

 2013年10月25日、有料メールマガジン水道橋博士のメルマ旬報」にて拙作「みっつ数えろ」の連載第五・五戦が配信されました。みなさまお読みいただけましたでしょうか。今回はインタールード回でありまして、ジェントルメン中村先生の「プロレスメン」(及び、それ以前に描かれた素敵なプロレス読物)へのオマージュとして、登場人物の選手名鑑を書かせていただきました。お話としては一切進行していないのですが、こんなん考えてるのが、とても楽しいのです。

 さてここからは、本日配信の「みっつ数えろ」を読んでいないとまるっきり意味が分からないエントリになりますので、ご購読はこちらのページからお願いします。「みっつ数えろ」とはざっくり言うと「女子高生がプロレス部を設立しようとするが、危険すぎるという理由で学校から却下され、その代わりに演劇部を設立して演劇だと言い張りながらプロレスを行う」というお話のマンガ原作です。プロレスを知らない人でも楽しめるようなわりと真っすぐな青春ストーリーとして書いてるつもりですが、そうでもなかったら申し訳ございませんということで、何卒。

 で、解説なのですが、本日は稀代の傑作プロレス漫画、ジェントルメン中村先生の「プロレスメン」について書いておこうと思います。これはねえ、超面白いんですよ。プロレスの胡散臭さがそのままロマンであるという真実を世に問うた名作なので、プロレス者なら絶対に読んでおくべき! プロレスは言葉じゃねえ! プロレスは生き様なんだよ! っていうのが、すごく巧妙に描かれた作品として、2010年代以降の人々が世に残さないといけない作品だと思っていたりします。

 舞台となるのは、業界5〜6番手の中規模団体、マスラオプロレスリング。この団体のヒールユニットの付き人である主人公が語り部となり、プロレスラーの凄まじい生き方を紹介しているマンガなのですが、あらゆる展開と台詞が漢すぎてやばい! 昨今のプロレスマンガってのは、魅せることとかショーがどうとか、そんなん理屈でうだうだ言ってたりしがちですが、そんなことどうでも良いんだよ、っていう。なぜなら、マンガの中で、登場人物は生きてるからですよ。生きてる人からすれば、関係ないから、そんなもんは。生きるためには、生き様をくらわさないといけない。そういう人が多数集まって色々なことをやるマンガ、それが「プロレスメン」なのです。

 特に、主人公が付き人を務めているビッグ・ヤッコこと矢井田耕三選手の言葉の力が尋常じゃない。「言ってみりゃァオレ達(プロレスラー)ってのはプロの肉食獣!! 現代人(モヤシ)にゃァ誰も銭ィ落とさねェ!!」「己をアピールできる臭いを嗅ぎ当てたら…速攻で食らいつかなきゃァーーいけねェんだよ!!」「酒と女とトレーニング!! これが男(プロレスラー)のプライベートってモンだゼ!!」などなど、「ギャー!」って叫んで本を手から落とす回数が多すぎる! それが本当に、男前なのです。

 プロレスっていうのは、見れば見るほど、色んなことを考えざるを得ないジャンルだったりします。どこまで決まってんの?とか。誰がこの絵を描いてるの?とか。そんなの、考えだしたら考えられてしまう。でも、そんなの、本当はどうでもよくて。「プロレスって面白い!」とか「プロレスラーってカッコいい!」って、本当はそれが全てで。そこに別に理屈なんてなくて。理屈とか本当にどうだっていいんですよ。目の前にいるプロレスラーが格好良かったら、お客としての自分はそれで充分なのであって。そういう意味で「プロレスラーってカッコいいぜ!」っていうことだけを描いた作品が「プロレスメン」なので、これは絶対に読んだほうが良いです。こんなに嬉しいプロレス作品なんて、そんなにはないので。

 ジェントルメン中村先生の「プロレスメン」は、マンガ作品でありながら、プロレス会場の熱気を伝える希有な名作であります。是非一度手に取ってほしい。それで、プロレス会場に行ってほしい。2013年現在のプロレス業界はものすごく質の高いことを当たり前のようにやっているので、すごく楽しいのですよ。プロレスは、本当に面白いです。何でも引き受けてしまうから。それを延々、色んな人がやり続けてくれているから、ぼくは今でも、プロレスを好きでいられるのです。全てのプロレスラーと、全てのプロレス団体に感謝を。ぼくはいつでも、あなたたちのぼくです。

 それではまた次回。まだ「水道橋博士のメルマ旬報」読んでおられない方で興味もっていただいたなら、ご購読はどうぞこちらのページから。以上、「みっつ数えろ」第五・五戦の、お粗末ながら解説でした。エレガントに、さよなら。

「みっつ数えろ」第五戦解説 〜プロレスは、八百長なのか?〜

 2013年10月10日、有料メールマガジン水道橋博士のメルマ旬報」にて拙作「みっつ数えろ」の連載第五戦が配信されました。みなさまお読みいただけましたでしょうか。今までで一番の長文となってしまいまして、最後まで読んでいただいた皆様には、感謝しきりでございます。自分は「みっつ数えろ」を書いているときは、自分でお話を作っているというつもりはまるでなくて、どこかに存在する素敵なやつらの素敵な話をそのまま書き写してる、という感覚なのですが、今回もみんながみんな素敵だったので、とても良かったです。全員大好きだぜ、この野郎!

 さてここからは、本日配信の「みっつ数えろ」を読んでいないとまるっきり意味が分からないエントリになりますので、ご購読はこちらのページからお願いします。「みっつ数えろ」とはざっくり言うと「女子高生がプロレス部を設立しようとするが、危険すぎるという理由で学校から却下され、その代わりに演劇部を設立して演劇だと言い張りながらプロレスを行う」というお話のマンガ原作です。プロレスを知らない人でも楽しめるようなわりと真っすぐな青春ストーリーとして書いてるつもりですが、そうでもなかったら申し訳ございませんということで、何卒。

 で、解説なのですが、今回のテーマは「プロレスは八百長なのか」です。あるいは「プロレスが八百長だと言われることについて」とも言えますが。これはまあ、プロレスを好きになったら、誰もが一度は通る道でしょう。直接言われることがなかったとしても、どこかでその問いが自分の中でも浮かんでくる。避けては通れないその道をどう歩いていくかによって、その人がどうプロレスと向き合うのかが決まるといっても過言ではない、重要な問いです。

 今回の第五戦を書くときに前提として思っていたのは、今年の8月に起こった出来事、それはつまり「小島聡選手がツイッターで『プロレスは!やらせじゃない!ですよね!』という問いへ回答する」という出来事です。経緯などは、カクトウログさんのこの記事とか、多重ロマンチックさんのこの記事などを読んでいただければと思いますが、小島選手の真面目で純粋な人となりがよく分かります。プロレスラーとして真摯な態度だとも思います。それは分かる。小島選手を否定するつもりはありません。でも、それでも自分は、この小島選手の回答を読んで、いやあ、ううん、と思ってしまったのでした。

 それは何故か。もう答えは簡単です。小島選手自身が、この小島選手の言葉よりも、遥かに強いということをぼくは知っているからです。この年齢で、いまだにチャンピオン戦線に残り続けているという事実。言葉が上手なレスラーじゃないから、試合で観客を魅了するという覚悟、自分のファイトスタイルを貫き通し、うるさ方のプロレスファンを感激させるまでになった歴史を。ラリアットが必殺技なのに、一時期は握力が20キロ以下にまでなり、それでも戦い続ける小島聡がいかに強いか、いかにカッコいいのかを、ぼくは知っています。

 だから、そんな小島選手が、プロレスがやらせかって聞かれたときに言ってほしい言葉なんて、ぼくからしたら一つしかありません。「小島聡の試合を見てくれれば分かります」って、それだけで、ぼくは充分だと思うんですよ。だって、見れば分かるもの、プロレスが、やらせなんて言葉の遥か向こうにあることを。プロレスを実際に観て、プロレスがやらせだなんて思うやつはいないし、それでもまだプロレスがやらせだなんて言うやつがもし仮にいたとしたら、そいつはただ自分に嘘をついてるだけですよ。そんなやつは、きっといつか石川雄規選手が追いかけて首ねっこをつかんで強引にプロレスファンにしてくれますから、石川雄規選手に任せてれば良いんじゃないかと思うんですよね。

 そういうことを考えていたので、「みっつ数えろ」第五戦では、プロレスが八百長だと言う同級生に対して、小学生のみやびは、ああいう形でプロレスの凄さを教えたのでした。それは、みやびが決めたんでしょう、きっと。父親が、大けがをした直後でもなお、カッコいいプロレスラーだったという圧倒的な事実を目の当たりにして、プロレスの凄さを伝えられるように、強くなろうと決めたんだと思います。だから、あゆみに勝ってしまう。この小学生の時点であゆみとみやびはプロレスを400戦やって全部あゆみが勝ってるはずなんですが、このとき、初めてみやびがあゆみに勝ったんですよね。それは、強くあろうとみやびが本気で決めたからです。そして、強くあろうと本気で決めた人間は、実際に強いんです。小島聡選手が、シラユリ選手が、全てのプロレスラーがそうであるように。プロレスラーは強い。だから、やらせとか、八百長とか、そんな弱っちい言葉なんてラリアット一発だぜと、ぼくはそんな風に思っているのです。

 プロレスがすごいってことなんて、プロレスに触れたら誰だって分かります。自分は本当にそう信じています。だから「みっつ数えろ」を読んでちょっとでも何かを思ってくれる人がいたら、その人にはプロレスに触れてほしい。で、もっと言うと、「みっつ数えろ」が、ただのプロレスについての物語ではなく、これはもうプロレスそのものだと言えるほどの、そういうものになっていけば良いなあと思っています。まあたぶん、そうなることでしょう、きっと。「みっつ数えろ」に出てくるあいつらは、そういうことを、やってくれちゃうやつらでしょうから。

 それではまた次回。まだ「水道橋博士のメルマ旬報」読んでおられない方で興味もっていただいたなら、ご購読はどうぞこちらのページから。以上、「みっつ数えろ」第五戦の、お粗末ながら解説でした。エレガントに、さよなら。

「みっつ数えろ」第四戦解説 〜読書の秋にお薦めするプロレス課題図書〜

 2013年9月25日、有料メールマガジン水道橋博士のメルマ旬報」にて拙作「みっつ数えろ」の連載第四戦が配信されました。みなさまお読みいただけましたでしょうか。今回はお話としてはわりと繋ぎの回になってしまいましたが、個人的にはシラユリ選手という架空の、でもきっとどこかにいるレスラーのことを登場人物の口を借りて語れて大層ご満悦でした。プロレスが好きすぎて試合中ずっと笑ってるプロレスラーって、そんなん素敵だなあと。このシリーズは次回で終わるので、そちらもお楽しみいただければ嬉しいです。

 さてここからは、本日配信の「みっつ数えろ」を読んでいないとまるっきり意味が分からないエントリになりますので、ご購読はこちらのページからお願いします。「みっつ数えろ」とはざっくり言うと「女子高生がプロレス部を設立しようとするが、危険すぎるという理由で学校から却下され、その代わりに演劇部を設立して演劇だと言い張りながらプロレスを行う」というお話のマンガ原作です。プロレスを知らない人でも楽しめるようなわりと真っすぐな青春ストーリーとして書いてるつもりですが、そうでもなかったら申し訳ございませんということで、何卒。

 で、解説なのですがその前に、誰が得するんだという「みっつ数えろ」豆知識を。「みっつ数えろ」の連載は第2話以降毎回必ず序文として、「これは、とある女子校で……を描く、〜〜〜マンガの原作である」という風に始まっているのですが、実はこの「〜〜〜マンガ」という表現は毎回変えてるんですよ! 誰一人気付いてないでしょうけど! でもまあ、俺が思いついちゃったからそうしていて。で、その「〜〜〜マンガ」という表現は、その回の最後の<著者より>に対応させてるんです。気持ち悪い! でも、やるっきゃない!

 たとえば第二回は<著者より>でDDTプロレスリングの両国大会のお知らせをしているわけですが、その回の序文は「青春ドラマチックドリームマンガ」。<著者より>で全日本プロレス大田区大会を紹介した第三回は「明るく、楽しく、激しい青春マンガ」ですし、我闘雲舞という団体のタイ興行と無料メルマガをお薦めした第四回は「雲よりも高く舞う青春マンガ」と序文に記していたりします。まあ、だから何だって話ですし、これをやることでどこかの誰かが実利を得ることはないであろうことは重々承知しているわけですが、それでもやっぱり、なるべくプロレスの神様に恥じぬよう、こういう細かいことをやっていたりするのです、細々と、しかし信念を持って。

 そして今回配信された「みっつ数えろ」の序文は「源氏ボタルのように今だけを輝く、青春マンガ」。源氏ボタル、という単語を聞いてプロレス者が思い浮かぶ人間は一人しかいません。ミスター・プロレス、天龍源一郎。というわけで今回の<著者より>では、先日発売された「天龍源一郎 酒羅の如く」(画・叶精作 原作・岡戸隆一)を簡単に紹介させていただきました。

天龍源一郎 酒羅の如く」(画・叶精作 原作・岡戸隆一) Amazon

 で、なんか、思ったのですが。プロレスを好きになる、というか、プロレスを好きな自分になる、っていう機会って、色んな種類のタイミングがあって。勿論プロレスの試合を観て心が動いてそのままプロレスを好きになる、っていうのが自然なあり方なわけですが、そうじゃないあり方もあってですね。例えば自分で言うと、自分は1980年生まれなのですが、試合から入ってプロレスを好きになってるわけじゃないんですよね。四天王とか三銃士とか、リアルタイムで観ることも出来たはずなんですけど、というかいま思えば観ておけば良かったって痛感することも多々あるんですけど、そこは正直全く通ってなかったりするんです。本当、全然観てなかったし、何というか自分にとって、それが切実なものだって感覚が当時は一切なくて。だから別に、プロレスが好きだからプロレスを好きになったわけではなかったりするんですよ。むしろ自分とはかなり遠いところにプロレスはあって。

 じゃあなんでプロレスを好きになれたか、っていうか、プロレスを好きな自分になることが出来たかっていうと、これはやっぱり、「紙のプロレス」と「週刊ファイト」なんですよね。当時はそういう媒体があったんです。というかまあ、山口日昇と井上編集長ですよね。その人たちがそこで書いてた文章が、まあ、キレッキレだったわけですよ。本当に、びっくりするくらいに。思春期って、文字に憧れるじゃないですか。それは自分自身の無力さを奥底で知っているからこそ、文字という、主語や背景を必要としない表現活動で世界を変えられる、そのアナーキズムに憧れてるわけじゃないですか。自分がいかにどうしようもなく屑でモテなくてしょうもない人間だとしても、自分から切り離された自分の文字がこの世界をぶっ壊すことが出来るかもしれない、そういった憧れは、思春期の特権として、やっぱり自分は抱えていて。俺は駄目だけど俺の文字に託す、みたいな幻想が、まあまああったりするわけですよ。

 そういった意味で、当時の山口日昇の文章の、陰のあるアジテーションっぷりはやっぱり凄くて。それで井上編集長の、当時はもう週刊ファイトの編集長を退いていたかもしれないけど、喫茶店トークと呼ばれるコラムの独特すぎる着眼点とそこに殉じる論理展開は、ぼくは文章としてすごく感銘を受けたわけです。別役実とか、色川武大の文章を読んだときと同じ感じで、すげえ!ってなって。んで、こんなにすごい文章を書く人たちが考え続けるジャンルって何なんだろう?って自然とそうなっていって。そこから、プロレスに興味を持ってプロレスを観るようになって、そこで初めて、プロレスのこっち側に入ったんだっていう自覚は今でもあったりするんです。だから今でも、自分は本当にプロレスを好きなのか?って自問自答は日々繰り返していて。そしてその度に、自分の中でのプロレスの濃度が上がっていくという、まあそんな風にして生きています。

 で、まあ、長々と書きましたけど、何が言いたかったかっていうと、文章からプロレスに入るっていうのも、あるなって思うんですよね。文章っていうか、書籍というか、書かれたものを読んで、プロレスに興味を持つっていうのって、全然不自然なことじゃなく当たり前のようにしてあり得るよなって思うんです。これは「みっつ数えろ」もそうなんですけど、プロレスを題材にしてるから敬遠されちゃうっていうのはすごく悔しくて、プロレスを好きかどうかじゃなく、っていうかプロレスを知ってるかどうかとか関係なく、良い文章は人を惹き付けるし、良い物語は人を惹き付ける、それは自分の経験もあるから、そのほうが良いと思うんですよね。ジャンルとかあんまり関係なくて、良いものは良い、それがたまたまプロレスである、っていう感じで、「みっつ数えろ」は読んでもらいたかったりするんです。そのハードルは、なんだか嫌になるくらいに高いのですけども。

 なので、一生懸命書いておりますので、プロレスってあんまり好きじゃないなって方にも「みっつ数えろ」気が向いたらちょこっと読んでいただければ嬉しいです。

 ……って感じで終わっちゃダメだろ! 「天龍源一郎 酒羅の如く」の話全然してねえよ! ええっと、この本はですね、天龍源一郎選手という稀代の酒豪プロレスラーのお酒にまつわるマンガ、本人へのインタビューと、当時天龍番だった小佐野景浩元週刊ゴング編集長へのインタビュー(インタビュアーは吉田豪氏)で構成されている一冊です。

 天龍選手はアイスペールに色んな酒をぶち込んでそれを飲み交わすという斬新なスタイルの飲み方を開発された方なのですが、マンガで紹介されるお酒のエピソードがことごとく最高! そしてそのマンガで描かれるあらゆるプロレスラーの笑顔が素敵すぎてこれがまた最高! 自分はプロレスラーに一番求めてるのは「笑顔の素敵さ」だったりするのですが、そういう意味で全ページぐっときますし、またそこを補足する天龍選手のインタビューが男前この上なしです。イイ男になりたいと願う人なら老若男女誰しも読んで損はない名著ですので、男の教科書として心からお薦めします。

 あとプロレスファン的には、北尾が酔い潰れて自分で救急車を呼んだって話はわりと有名かと思うのですが、実はその後日北尾は……という話が小佐野さんの証言で明らかになっていたりして、ちょっと幻想が膨らむこと請け合いです。

 いやあ、今回も長文で失礼しました。それではまた次回。まだ「水道橋博士のメルマ旬報」読んでおられない方で興味もっていただいたなら、ご購読はどうぞこちらのページから。以上、「みっつ数えろ」第四戦の、お粗末ながら解説でした。エレガントに、さよなら。

「みっつ数えろ」第四戦解説遅刻のおしらせ

 すみません…。本来ここには有料メルマガ「水道橋博士のメルマ旬報」連載中「みっつ数えろ」の第四戦(2013年9月25日配信)の解説が載っているべきなのですが、もろもろの都合により全く間に合っておりません。申し訳ございません! こんなことになることを予期して、サイトトップ用に「W-1」みたいに人差し指を立てて「1」のポーズを取った変な写真を用意しておけば良かった…。というわけでまことにあいすみませんが、今週じゅうに必ず更新しますので、今しばらくお待ちください!