「みっつ数えろ」第五・五戦解説 〜ジェントルメン中村「プロレスメン」とは何か?〜

 2013年10月25日、有料メールマガジン水道橋博士のメルマ旬報」にて拙作「みっつ数えろ」の連載第五・五戦が配信されました。みなさまお読みいただけましたでしょうか。今回はインタールード回でありまして、ジェントルメン中村先生の「プロレスメン」(及び、それ以前に描かれた素敵なプロレス読物)へのオマージュとして、登場人物の選手名鑑を書かせていただきました。お話としては一切進行していないのですが、こんなん考えてるのが、とても楽しいのです。

 さてここからは、本日配信の「みっつ数えろ」を読んでいないとまるっきり意味が分からないエントリになりますので、ご購読はこちらのページからお願いします。「みっつ数えろ」とはざっくり言うと「女子高生がプロレス部を設立しようとするが、危険すぎるという理由で学校から却下され、その代わりに演劇部を設立して演劇だと言い張りながらプロレスを行う」というお話のマンガ原作です。プロレスを知らない人でも楽しめるようなわりと真っすぐな青春ストーリーとして書いてるつもりですが、そうでもなかったら申し訳ございませんということで、何卒。

 で、解説なのですが、本日は稀代の傑作プロレス漫画、ジェントルメン中村先生の「プロレスメン」について書いておこうと思います。これはねえ、超面白いんですよ。プロレスの胡散臭さがそのままロマンであるという真実を世に問うた名作なので、プロレス者なら絶対に読んでおくべき! プロレスは言葉じゃねえ! プロレスは生き様なんだよ! っていうのが、すごく巧妙に描かれた作品として、2010年代以降の人々が世に残さないといけない作品だと思っていたりします。

 舞台となるのは、業界5〜6番手の中規模団体、マスラオプロレスリング。この団体のヒールユニットの付き人である主人公が語り部となり、プロレスラーの凄まじい生き方を紹介しているマンガなのですが、あらゆる展開と台詞が漢すぎてやばい! 昨今のプロレスマンガってのは、魅せることとかショーがどうとか、そんなん理屈でうだうだ言ってたりしがちですが、そんなことどうでも良いんだよ、っていう。なぜなら、マンガの中で、登場人物は生きてるからですよ。生きてる人からすれば、関係ないから、そんなもんは。生きるためには、生き様をくらわさないといけない。そういう人が多数集まって色々なことをやるマンガ、それが「プロレスメン」なのです。

 特に、主人公が付き人を務めているビッグ・ヤッコこと矢井田耕三選手の言葉の力が尋常じゃない。「言ってみりゃァオレ達(プロレスラー)ってのはプロの肉食獣!! 現代人(モヤシ)にゃァ誰も銭ィ落とさねェ!!」「己をアピールできる臭いを嗅ぎ当てたら…速攻で食らいつかなきゃァーーいけねェんだよ!!」「酒と女とトレーニング!! これが男(プロレスラー)のプライベートってモンだゼ!!」などなど、「ギャー!」って叫んで本を手から落とす回数が多すぎる! それが本当に、男前なのです。

 プロレスっていうのは、見れば見るほど、色んなことを考えざるを得ないジャンルだったりします。どこまで決まってんの?とか。誰がこの絵を描いてるの?とか。そんなの、考えだしたら考えられてしまう。でも、そんなの、本当はどうでもよくて。「プロレスって面白い!」とか「プロレスラーってカッコいい!」って、本当はそれが全てで。そこに別に理屈なんてなくて。理屈とか本当にどうだっていいんですよ。目の前にいるプロレスラーが格好良かったら、お客としての自分はそれで充分なのであって。そういう意味で「プロレスラーってカッコいいぜ!」っていうことだけを描いた作品が「プロレスメン」なので、これは絶対に読んだほうが良いです。こんなに嬉しいプロレス作品なんて、そんなにはないので。

 ジェントルメン中村先生の「プロレスメン」は、マンガ作品でありながら、プロレス会場の熱気を伝える希有な名作であります。是非一度手に取ってほしい。それで、プロレス会場に行ってほしい。2013年現在のプロレス業界はものすごく質の高いことを当たり前のようにやっているので、すごく楽しいのですよ。プロレスは、本当に面白いです。何でも引き受けてしまうから。それを延々、色んな人がやり続けてくれているから、ぼくは今でも、プロレスを好きでいられるのです。全てのプロレスラーと、全てのプロレス団体に感謝を。ぼくはいつでも、あなたたちのぼくです。

 それではまた次回。まだ「水道橋博士のメルマ旬報」読んでおられない方で興味もっていただいたなら、ご購読はどうぞこちらのページから。以上、「みっつ数えろ」第五・五戦の、お粗末ながら解説でした。エレガントに、さよなら。