「みっつ数えろ」第五戦解説 〜プロレスは、八百長なのか?〜

 2013年10月10日、有料メールマガジン水道橋博士のメルマ旬報」にて拙作「みっつ数えろ」の連載第五戦が配信されました。みなさまお読みいただけましたでしょうか。今までで一番の長文となってしまいまして、最後まで読んでいただいた皆様には、感謝しきりでございます。自分は「みっつ数えろ」を書いているときは、自分でお話を作っているというつもりはまるでなくて、どこかに存在する素敵なやつらの素敵な話をそのまま書き写してる、という感覚なのですが、今回もみんながみんな素敵だったので、とても良かったです。全員大好きだぜ、この野郎!

 さてここからは、本日配信の「みっつ数えろ」を読んでいないとまるっきり意味が分からないエントリになりますので、ご購読はこちらのページからお願いします。「みっつ数えろ」とはざっくり言うと「女子高生がプロレス部を設立しようとするが、危険すぎるという理由で学校から却下され、その代わりに演劇部を設立して演劇だと言い張りながらプロレスを行う」というお話のマンガ原作です。プロレスを知らない人でも楽しめるようなわりと真っすぐな青春ストーリーとして書いてるつもりですが、そうでもなかったら申し訳ございませんということで、何卒。

 で、解説なのですが、今回のテーマは「プロレスは八百長なのか」です。あるいは「プロレスが八百長だと言われることについて」とも言えますが。これはまあ、プロレスを好きになったら、誰もが一度は通る道でしょう。直接言われることがなかったとしても、どこかでその問いが自分の中でも浮かんでくる。避けては通れないその道をどう歩いていくかによって、その人がどうプロレスと向き合うのかが決まるといっても過言ではない、重要な問いです。

 今回の第五戦を書くときに前提として思っていたのは、今年の8月に起こった出来事、それはつまり「小島聡選手がツイッターで『プロレスは!やらせじゃない!ですよね!』という問いへ回答する」という出来事です。経緯などは、カクトウログさんのこの記事とか、多重ロマンチックさんのこの記事などを読んでいただければと思いますが、小島選手の真面目で純粋な人となりがよく分かります。プロレスラーとして真摯な態度だとも思います。それは分かる。小島選手を否定するつもりはありません。でも、それでも自分は、この小島選手の回答を読んで、いやあ、ううん、と思ってしまったのでした。

 それは何故か。もう答えは簡単です。小島選手自身が、この小島選手の言葉よりも、遥かに強いということをぼくは知っているからです。この年齢で、いまだにチャンピオン戦線に残り続けているという事実。言葉が上手なレスラーじゃないから、試合で観客を魅了するという覚悟、自分のファイトスタイルを貫き通し、うるさ方のプロレスファンを感激させるまでになった歴史を。ラリアットが必殺技なのに、一時期は握力が20キロ以下にまでなり、それでも戦い続ける小島聡がいかに強いか、いかにカッコいいのかを、ぼくは知っています。

 だから、そんな小島選手が、プロレスがやらせかって聞かれたときに言ってほしい言葉なんて、ぼくからしたら一つしかありません。「小島聡の試合を見てくれれば分かります」って、それだけで、ぼくは充分だと思うんですよ。だって、見れば分かるもの、プロレスが、やらせなんて言葉の遥か向こうにあることを。プロレスを実際に観て、プロレスがやらせだなんて思うやつはいないし、それでもまだプロレスがやらせだなんて言うやつがもし仮にいたとしたら、そいつはただ自分に嘘をついてるだけですよ。そんなやつは、きっといつか石川雄規選手が追いかけて首ねっこをつかんで強引にプロレスファンにしてくれますから、石川雄規選手に任せてれば良いんじゃないかと思うんですよね。

 そういうことを考えていたので、「みっつ数えろ」第五戦では、プロレスが八百長だと言う同級生に対して、小学生のみやびは、ああいう形でプロレスの凄さを教えたのでした。それは、みやびが決めたんでしょう、きっと。父親が、大けがをした直後でもなお、カッコいいプロレスラーだったという圧倒的な事実を目の当たりにして、プロレスの凄さを伝えられるように、強くなろうと決めたんだと思います。だから、あゆみに勝ってしまう。この小学生の時点であゆみとみやびはプロレスを400戦やって全部あゆみが勝ってるはずなんですが、このとき、初めてみやびがあゆみに勝ったんですよね。それは、強くあろうとみやびが本気で決めたからです。そして、強くあろうと本気で決めた人間は、実際に強いんです。小島聡選手が、シラユリ選手が、全てのプロレスラーがそうであるように。プロレスラーは強い。だから、やらせとか、八百長とか、そんな弱っちい言葉なんてラリアット一発だぜと、ぼくはそんな風に思っているのです。

 プロレスがすごいってことなんて、プロレスに触れたら誰だって分かります。自分は本当にそう信じています。だから「みっつ数えろ」を読んでちょっとでも何かを思ってくれる人がいたら、その人にはプロレスに触れてほしい。で、もっと言うと、「みっつ数えろ」が、ただのプロレスについての物語ではなく、これはもうプロレスそのものだと言えるほどの、そういうものになっていけば良いなあと思っています。まあたぶん、そうなることでしょう、きっと。「みっつ数えろ」に出てくるあいつらは、そういうことを、やってくれちゃうやつらでしょうから。

 それではまた次回。まだ「水道橋博士のメルマ旬報」読んでおられない方で興味もっていただいたなら、ご購読はどうぞこちらのページから。以上、「みっつ数えろ」第五戦の、お粗末ながら解説でした。エレガントに、さよなら。