DDTプロレスリングが推せる、いや、推せすぎる!

 2008年10月19日に後楽園ホールで行われたDDT6ブランド大集結的な興行を見に行きまして、やべえ、本当に面白すぎる。こんなん高校生ぐらいのころに見てたら「俺もプロレスラーになりたい!」とはたぶん思わないんだけど「俺もプロレスを作る人になりたい!」って絶対思うわ。もしこれぐらい面白いアダルトビデオを見たらアダルトビデオ業界に入りたいって思うだろうし、もしこれぐらい面白い建築工事の現場があったら建築工事業界に入りたいって思うだろう。プロレスってジャンルのすごさというのではなくて、一生懸命に仕事をやっている人の美しさを見た、俺は、確かに。

 特に印象に残ったことなどを記す。

第1ダークマッチ 6ブランド代表汁ックスメンタッグ〜DDT Special限定ユニット「嫌悪感」結成!〜
大家健&中澤マイケル&佐野直vs安部行洋&726&伊橋剛太

 嫌悪感(大家健&中澤マイケル&佐野直のユニット)の歌の途中でみんなが乱入してくれて本当に良かった。あのまま歌が続いていたら、第1ダークマッチの途中で席を立つ人間が続出してもおかしくなかったのではないか。あの乱入の格好良さたるや、もうあの歌を途中でやめさせてくれるって時点でどんな悪人であっても即座にベビー転向できると思う。最近イメージの良くない人(嵐の大野くんとか東條英機とか)はみんな、嫌悪感の歌の途中で乱入するところを世界中の人たちに見せていけば良い。でもそれだけのことでベビーフェイス側が決まるっていうのがプロレスはすごい。あと嫌悪感もすごい。俺が風俗嬢だったら大家とか佐野とかに秘部をまさぐられるのなんて死んでも嫌だ。でも風俗嬢は死なない、ということは一番すごいのは風俗嬢だろうか?

第1試合 反乱ブル 鎮圧者:高木三四郎
反乱予定選手:マサ高梨、星誕期、諸橋晴也、中澤マイケル、美月凛音 他

 マサ高梨に泣かされてしまった。社長・高木三四郎への反乱者として色んな選手が出てきて反乱軍の代表者を決めようってんで高梨が最後まで残る、そして高木社長との一騎打ち、チャンス、来た、決めろ、ってところでマイケルが高梨に気持ちを託す、「今こそ革命を起こさ、くす、んだ!」って信じがたいほどの噛みっぷり。ブラッシーでもそんなに噛まねえよ! こんなもん巨人師匠だったらパンパンなんだけど、その噛みを受けて高木三四郎へ行く前にマイケルにキック一閃入れる高梨の格好良さよ! 何故か涙がボロボロ出て止まらなかった。高梨のアドリブが俺の「自分の限界を超えて頑張る人って超リスペクト琴線」に触れたか、もしくは俺が鬱病なのか、勿論その両方という可能性も未だ捨てきれない。あと中澤マイケルがプロレス界の山崎邦正になるために足りないもの、必要なものは何かっていうことは真剣に考えていきたい。スベったり笑われたりするだけではマイケルは山崎邦正にはなれなくて、じゃあ必要なのは何なのか?っていうのを観客論の観点から考えなくちゃいけないと思う、プロレス大学の学生である我々は。

第5試合 新北京プロレスvsイタリアン・フォーホースメン!伊中インターナショナルマッチ
趙雲子龍周瑜公謹&サン・スーロー(新北京プロレスの大皇帝)
vsフランチェスコトーゴー&アントーニオ本多&ササキ・アンド・ガッパーナ

 趙雲子龍が二階席から「ポリス・ストーリー!」って言いながらカーテンをつかんでスルスルと降りてくるというのは衝撃以外の何者でもなかった。大抵の場合、プロレスラーが大きな声で叫びながら何か行動する、というときにその叫び声の内容は必殺技の名称なので、おそらく「ポリス・ストーリー」というのは趙雲子龍の必殺技なんだけど、そんなTPOの限定された必殺技が他にあるだろうか? 自分が二階にいて、カーテンを伝って下に降りられるとき限定の必殺技、しかも相手に与える肉体的なダメージはゼロという必殺技が。
 まあでも、趙雲子龍ってあの顔とか性格からすると絶対子供好きじゃん? たぶんファイトマネーを中国のちびっこハウス的なところに贈ったりしてるわけですよ。「趙雲兄ちゃんが来た!」とか言われて慕われてるのね。そんなある日、中国のちびっこハウス的なところが火事に! 火の元はもちろん子供たちがシークごっこで使ってた火炎放射器。しまった! 二階に子供たちが取り残されている! っていうときに頭を水からかぶった趙雲が助けに行って、二階からカーテンを伝って下りて来て出来た必殺技っていうのが「ポリス・ストーリー」。こうしてプロレス界で初めて、誰も傷つけない必殺技が生まれたのだという。
 っていう風に週刊ファイトには書いてあったんだけど、実際のところは趙雲子龍が浮気相手の人妻クーニャンの家でニャンニャンしてたら旦那が帰ってきて鉢合わせ、慌てて窓からカーテンを伝って飛び降りたときに出来たのが「ポリス・ストーリー」っていうのが信頼できる情報筋から入手した真相です。直接趙雲子龍本人に問いただしてみたところ「ちょっとちょっと、いつの話を蒸し返すアルか? 蒸すのは雲南省の雨期と女性の股間だけで充分! とは言え私の股間の『子龍』が、夜になると『大人龍』になるというのは事実アルけどね…(笑)」と、相変わらず反省の色ナシであった。
 んで、さらに俺の頭の中では、いま上に書いたエロ話を趙雲子龍の耳元でささやいたら本当はシャイな趙雲が顔を真っ赤にしてる、ってとこまで話が進んでいるのでもう何が何やらさっぱり分かりません。こんなことばっかり考えて年収1億円ぐらいもらえる仕事を探しています。じゃまーるで。

第6試合 マッスル提供時間

 十把一絡げ的な汁レスラー軍団の中に、当たり前のようにいるタノムサク鳥羽さんはすごいと思う。俺が鳥羽さんの息子だったら絶対友だちに自慢しまくる。でも娘だったらあんな父親は絶対に認めないだろう。息子だったら最高で、娘だったら最悪っていう、それは男の子としてすごく素敵な生き方ではないでしょうか。鳥羽さんは興行最後の全員集合のときもひとり明らかに帰り支度で携帯をいじりながら出ていて、ああそっか、こんな大人にもゆとり世代っているんだ、と勉強させられる。あと松井レフェリーが当たり前のように顔にぶっかけられてたんだけども、その表情たるやそそるそそらないなんてもんじゃない、全人類を前かがみにさせるほどのポテンシャルの高さであり、もはや松井さんは汁レフェリーなんかじゃない、単体レフェリーだ!との思いを新たにしたが、まったくもって新たにするのも恥ずかしいぐらいしょうもない思いではある。

第7試合 次期KO-Dタッグ挑戦者決定戦
HARASHIMA&大鷲透 vs KUDO&ヤス・ウラノ

 ヤス・ウラノが好きすぎる。俺が好きになるレスラーはヤス・ウラノに始まりディーノ、金原弘光などずんぐりむっくりな小太りの人ばかりなのでたぶんこれは純粋にセクシャルな意味での性癖なんだと思うんだけど、それをさておいても好きすぎる。試合中ずっとシャツを脱がないレスラーをこんなに好きになるなんて思ってなかった……でも好き。外見も、小ずるいスタイルも(普通にずるいんじゃなくて小ずるいのが良い)、絶対にダークな部分を隠し持ってるに違いないって思わせてくれる表情のひとつひとつも全部好き。だからヤスに勝ったディザスターBOXは大嫌い! ヤス、スキ! ディザスターBOX、キライ! 肉、ウマイ! ゴーヤ、ニガイ! デモ、シッカリ炒メタゴーヤハ、ソレホド、ニガクナイ……。

第8試合 100万円争奪6ブランド首脳会談6WAYラダーマッチ
高木三四郎vsMIKAMIvs趙雲子龍vs飯伏幸太vs石川修司vsマッスル坂井

 いや、でまあ、メインのこの試合なんだけど、色々あった上でこれ見させられたら何も言えねえわってぐらいに素晴らしかった。試合自体も練りに練られてて当たり前のように素晴らしくて、でも百万円は社長が取る。これはもう、そりゃそうだろと思うし、他の誰が取っても気持ち悪い。でもお客さんは残酷だから、残酷な上に色んなことを分かってるから、社長に対してブーイングを浴びせる。これはつまり、社長である高木三四郎はこの試合の形式が決まった時点で間違いなく負けるわけですよ。少なくとも自分が金を出してるんだから勝ちはない。よくてプラマイゼロなんだけど、観客のガッカリ感とか入れたら確実に負けてしまうという、おそろしい戦いですよ、どんなにうまいこと行っても必ず負けてしまうわけだから。
 でも高木社長は、結果から言うと自らの命を犠牲にして勝った。会場の後楽園ホールを潰そうとする巨人・ロングリバー黄河との戦いで無惨にもビームで撃ち落とされて爆死してしまったけど、でも高木社長が絶対に負けが決まってる戦いで勝ったんだっていうことを、俺たちは後世に語り継いでいかなくてはならない。もっと言うと、あれが普通に踏まれて死んだり岩を落とされて死んだりっていう今までにあった死に方だったら勝ててないんじゃないかと思っていて、少なくともあれだけの爆笑はやっぱり起きてないはずで、あそこでロングリバー黄河にビームを撃たせるっていう高木社長のすごさね。あれは高木社長が自らのモノローグで、原子炉的なことを口走ることで、ロングリバー黄河にビームを撃たせてるわけですよ。ロープに「振られてる」んじゃなくて「振らせてる」ように、ビームを「撃たせた」。だから高木三四郎の最期は完全にプロレスであり、高木三四郎はプロレスラーとして命を散らせた。本当に高木社長には、お疲れさまでしたって言葉とありがとうって言葉をいくらでも捧げたいって思うんだけど、社長本人のブログによると何とかコアファイターで無事に生還することが出来たようなので、ブログ文化はすげえなと思います。
 常規を逸して長くなってしまったが、常規を逸して素晴らしい興行だったんだから仕方ない。この素晴らしさが主に、40を手前にした中年男性の手によって届けられたものだっていうのがことに素晴らしい。こんな格好良い大人もいるんだと、大人になればこんなに格好良くなれるんだとこの年になって素直に感動できる機会ってのもそうそうない。夢を与えるのがプロレスラーの仕事だとするならば、2008年10月19日、高木三四郎は俺にとって最高のプロレスラーだった。DDTはいま本当にものすごく面白いんでみんな行くべき!