逃亡くそたわけ

絲山秋子「逃亡くそたわけ」
ASIN:4120036146
 世の中に「良い笑い」と「悪い笑い」があるとすればこれは間違いなく「良い笑い」であり、とても品が良いなあ、と思う。上品な小説、というわけではない。品には本来上下などなく、あくまでも良し悪しでしか測れないものであり、そしてこの小説は私にとってとても品が良い。といって、別に品が良い方が品が悪いよりも偉いなどということはなく、おそらくはどちらかに振り切れているということが重要なのではないか。

 いきなり団子は、サツマイモと餡の入ったお饅頭よ。中身の甘さと皮の塩気が、『いままでなかったこんな味』って感じなんよ。

 無駄に丁寧な感じ、ってのが可笑しい。あとズレ(何でここで言うねん!の可笑しみ。これは無闇に感動させない、という絲山秋子の態度にも通じる)も可笑しいし、土着性、ってのも可笑しい。無茶苦茶だな!という笑いはほとんどなく、それはつまり「逃亡くそたわけ」が良い小説であるということを示しているのではないだろうか。