「ボーイズ・オン・ザ・ラン」〜この世紀の大傑作にこれから出会う男どもに向けての4つのアドバイス〜

 まず前提として、映画「ボーイズ・オン・ザ・ラン」は世紀の大傑作だった。これはもう揺るぎない真実である。誰かの意見なんて一切関係なくて、俺にとって、そして世界中の俺にとって、これだけ魂をわしづかみにされる映画っていうのはほかにないのだから。この先の人生で何本の映画を観るのかは分からないが、「ボーイズ・オン・ザ・ラン」と並ぶ映画に出会うことがあっても、この映画を超える映画に出会うことはないと断言できる。つまり、最高傑作だった。

 映画を観ながら、叫び出したくなる衝動を何度も必死で抑えた。本気で劇場から逃げ出したくなった。「もうやめてくれ」って心の声じゃなく、実際に口に出して小さな声で呟いたし、あまりにも辛いから顔を背けて視線だけをなんとかスクリーンに向けるのが精一杯だった。本当に、もう二度と観たくない。この映画を観る必要のない人生のほうがずっと良いに決まってる。それでも人生で絶対に一度は観なきゃいけない映画だったし、たぶんこの先、俺はこの映画を何度も観るだろう。この映画を観る必要がなくなったとき、俺はきっと自分のことを嫌いになっているに違いない。つまり「ボーイズ・オン・ザ・ラン」という映画は、掛け値なしに、俺の人生そのものだ。

 どこが良かったとか、ここがすごかったとか、語り始めるとあらゆる事柄がネタバレになってしまう。だからその辺りは未来の自分に任せるとして、これから映画「ボーイズ・オン・ザ・ラン」という世紀の大傑作と出会う、幸せにも不幸なボンクラ男どもに向けて、この映画をどう観れば良いのかいくつかのアドバイスを贈ります。

原作は読んでからのほうが良いと思う

 原作を事前に読んでるか読んでないかというのはかなり重要な点だけど、個人的にはやっぱり読んでから映画のほうが良いと思う。というか、原作を読んでるか読んでないかでこの映画の見方はかなり根本的に変わる、間違いなく。これは、原作と映画の違いを見つける楽しみとかそういう瑣末なことではなく、原作を読んでいるかいないかで主人公の田西に対しての感動移入の度合いがまるっきり変わってくるし、それがこの映画の本質的な部分と大きく関わってくるからだ。

 原作を読んでいると、田西の結末や、行動を知って映画を観ることになる。で、もうそこがまさに、「やめてくれ」ってなる点なのだ。原作もマンガ史上に残る大傑作だから、読めば絶対に田西に感情移入することになる(そこで「田西に感情移入できなかった」っていう感想を持つ人は原作も映画も必要ないので却下する)。その上で映画を観るとどうなるかというと、映画における田西の失敗は、自分のものとして映しだされる。つまり、自分の人生で思い出したくない嫌な思い出、開けちゃいけないメモリーボックスを見せられる感覚に陥る。これはもう、本当に辛い。だけどその辛さこそが、「ボーイズ・オン・ザ・ラン」を大傑作としている所以なので、やはり原作は読んでおくことをお薦めしたい。

 あとこれはネタバレじゃなくて知っておいて問題ないと思うから書くが、この映画に原作のハナちゃんは出てこない。この決断は結構勇気がいる決断だったと推測するけど、結果的にはこの決断は大成功をおさめている。ハナちゃんが出ないことによる救いのなさこそがこの映画を大傑作にしているし、ハナちゃんが出てたらわりと普通の「良い原作だから良い映画になった」というようなことになっていたのは間違いない。なので、原作を読んで原作が大好きで、だからこそ映画には足が向かないって人にこそ、この映画は観てほしい。原作よりもきつい。実写だからこそのえぐさに、きっとあなたは驚くだろう。

わりと元気なときに観たほうがいい

 前段でも書いたように、この映画は本当にきつい。本当に救いがないし、カタルシスもない。何で金払ってこんなに辛い思いをしなきゃいけないんだろう、って真剣に思ってしまう。

 だから、落ち込んでるときとかには絶対観ないほうが良いと思う。これを観ることで「俺も頑張ろう」とか「年を取っても青春だ」とか「童貞はかっこ悪いけど美しい」って思える映画ではない。もしそう思えてる人がいるとしたら、それは俺は嘘だと思う。相当引きずる可能性があるから、間違っても仕事前とかには観るもんじゃない。

一人で観るべき

 色々選択肢はあるが、この映画はやはり一人で観るべき映画だと思う。確かに、観たあとに語りたくなるのは間違いない。あのシーンが良かったとか、あれはえぐかったとか、色々語れる。でもやっぱり一人で観るべきだろと思うのは、この映画を観たあとの不安、すごく語りたくなるんだけど語る相手の不在を含めての「ボーイズ・オン・ザ・ラン」だと思うからだ。語ると不安は薄れるだろうけど、でもたまには、一生のうちで一度ぐらいは、不安に怯えながらただ立ちすくむっていう映画経験があっていいんだと思う。

 一番やっちゃいけないのは、この映画を彼女や嫁と観に行く、これは絶対にやめておいたほうが良い。お互い不幸になるから。これはもう、あなたの彼女や嫁がどんなに良い女で賢くて理解のある人間だったとしても、一緒に観るべきじゃない。最悪どうしても一緒に観にいかなければいけない状況に陥ったとしても、映画を観終わったあとに感想を述べ合うのだけはやめておいたほうがいい。なぜなら、「理解できなかった」って言われたら腹が立つのは当然としても、「理解できた」って言われても殴りたくなるから。

 女子に理解されるために童貞やってんじゃねえんだよ、って、田西がちはるに駅のホームで言おうとして言語化できなかったのは、そういうことなんだと思う。じゃあ何のために童貞やってんのって聞かれても、分かんねえんだよ、答えなんて求めてないんだから。そういうことじゃねえんだよ。正解なんて見つけられないけど、そうじゃねえんだって確信だけがあるんだから、ここから逃げ出すために走り出すしかねえじゃねえか。

ボーイズ・オン・ザ・ラン」はそういう映画なので、俺はこの映画に対しての一切の女子からの評価は受け付けない。この映画だけは、女子と語っちゃいけないと思う。公開時は一人で観て、DVDになったときに男子限定の鑑賞会をやりながら「ここやべえよな」って言い合うのがベストなんじゃないか。

汚れてもいいパンツをはいていけ

 YOUのソープ嬢ははっきり言ってえろい。パンツを汚してしまう可能性があるから、それ相応の準備をしていったほうが良いだろう。俺のトランクスは、ガマン汁でカピカピになってしまったので、経験者が言ってるんだ、間違いない。


 以上のアドバイスをあなたに贈る。映画「ボーイズ・オン・ザ・ラン」にリアルタイムで出会えたこと、しかも田西と同じ29歳で出会えたことに、このうえない感謝と歓びを感じながら。