「マイマイ新子と千年の魔法」〜物語は死なず、負けない〜
ハンサム団が絶賛してたんで映画館まで足を運んだんだけど、尋常じゃない作品だった。今年ぼくは「サマーウォーズ」「This is it」「アンヴィル！〜夢を諦めきれない男たち〜」っていう、たぶん自分の人生に対して様々な意味で意義を問いかける映画作品に出会ったわけだけど、この「マイマイ新子と千年の魔法」っていう作品は、そんな一年を締めくくるにふさわしいっていうか、端的に言って今年ベストだった。素晴らしすぎる。こんなことができるんだったら、俺、アニメ業界に行ってたのに！っていうぐらいのことは普通に思うわ。
上映中の作品なのでネタバレはしたくないし、とにかく観に行ってくれと懇願するしかない、もしこれを読んでいるあなたがこの作品を観に行ってくれるなら俺はあなたの靴の裏を舐めますってぐらいのことは普通に思ってるんだけど、この映画は「物語とは一体何を成し遂げられるのか？」っていうことを真剣に、きわめて真面目に描いた作品だと思うんです。リアル、って言葉を使ってもいいけど。
と言いつつ、物語的なセオリーを明らかに意識してぶっ壊して進んでくってのがすごい。新子は空想で物語を創り出していくことに長けている女の子なので、1000年前の世界を現実に生み出すことができるんですよ。アニメだし。普通そんな設定というか、作品としてそういう枠組みを発案したら、絶対そっち側に寄り添って、ストーリーとして面白い方向に持っていくと思うんですよね。例えば、新子が空想した1000年前の世界が現実の世界に具体的な影響を与えるとかね、そういう「うまいやり方」っていくらでもあったと思うんです。細部ではそういうシーンもあるけど、でもそこに甘んじてない。絶対そっちに立ち位置を据えて造ってったほうが全然分かりやすいし、それで造れるカタルシスっていくらでも可能性を思いつくわけだけど。
でもこの映画って、それをやらんのよ！ 分かりやすさに対して妥協してないし、頑固なんですよ。意固地というか。例えばこの映画には、主人公が憧れてる女教師がいるんですよね。彼女はとある理由で主人公たちのいる世界から離れてしまうんだけど、その理由っていうのが、ストーリー的にめちゃめちゃ不要なんです。分かりやすくないというか、それいらんやん！っていう。でもやっぱ、いるんですよ。何故か？
だって人間なんて、人生なんて、そんなに分かりやすいもんじゃないんですよ。俺ら、だって、ストーリーのために生きてるわけじゃないじゃん？ 俺の人生にお客さんなんていないしさ。だけど、分かりにくいけど、やっぱり生きていかないといけなくて。だったら、物語を造ることで飯を食う人間は、その分かりにくさとか、面倒くささとかを含めて物語を描かないといけないんですよ、本当は。
最初に言ったように、この映画は「物語とは一体何を成し遂げられるのか？」を描いた作品ですと。でありながら「物語」の持つ分かりやすいポテンシャルに対して全く甘んじてないっていうのが、本当に凄まじい挑戦だと思うんです。劇中でも描かれるように、現実とか、人生っていうのは、あまりにも厳しくて。ただそれでも「物語」は死なないし、「物語」を紡ぎ続けられる限りは、絶対に「物語」は死なないんですよ。「物語」の救いっていうのはそこにあるし、そこにしかないんです。だからこの作品は、現実逃避なんかじゃ絶対にない。どんなにきつくてヘビーな現実であっても、それを凌駕する「物語」を造り上げることが出来るっていうのが、人間に許された唯一の突破口なんだ！って、俺はこの映画を観てそう思ったわけです。
だから、この映画を観た人は、他人に対してこの映画を薦めざるを得ないと思うんです。興行として、成功してないわけですよ。ってことは、新子の、貴伊子の、片渕須直の「物語」が、届いてないんですよね。それってやっぱり間違ってるじゃないですか？ この映画が「物語とは一体何を成し遂げられるのか？」を描いた作品なんだったら、この作品は一人でも多くの人に観られるべき作品なんですよ。だって「物語」ってのは、こうあるべき、ってものを描くものなんだから。だからこの映画は、大ヒットしないと片手落ちなんですよ、本当に。それを含めての作品なんだから。新子の頭の中で描かれた清少納言のお話を、君が知らないってことが間違ってるんだから！
ぼくは10年近くインターネットで日記を書いてきて、その中で、たぶん色んな人が離れていったり、もしかしたら死んだ人もいるのかもしれないけど、でもぼくが書いた日記に何かしらの好意のかけらでも持ってくれた人がまだいるなら、是非この映画は観てほしいです。そのために、自分は10年間も日記を書いてきたのかもしれない、って真剣に思ってます。「マイマイ新子と千年の魔法」は、本当にすごいんだから。本当に本当なんだよ！
