映画「アンヴィル! 〜夢を諦めきれない男たち〜」

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 30年間音楽を続けているカナダのメタルバンドを追ったドキュメンタリー映画。同世代のバンドが売れているにも関わらずあまり芽が出ず、それでもロックスターという夢を諦めきれずにバイトをしながら音楽活動を続けて色んなトラブルやケンカもありつつ云々…というお話。

 映画「レスラー」で命を懸けてコーナーポストから跳んだランディはその後どうなったのだろう? もし死んでいれば物語としてはハッピーエンドだろうけど、人はあまり死にたいときに死ねない。極限まで自分をさらけ出して生きていく者の人生はあまりに複雑であまりにぐちゃぐちゃしているから、おそらく物語じゃ描けないんだと思う。だからプロレス、っていうジャンルが生まれたんじゃないか。アイドルもロックもそうだけど。複雑すぎる自分の思いや生き様を、彼らは分かりやすい物語に託すのではなくジャンルに託す。

 ロックスターになるためには、方法なんていくらだってあるのだ、きっと。アルバムが売れなくても、ライブに客が5人しか集まらなくても、この映画によってアンヴィルってバンドは自分たちがロックスターであるってことを示したんだと思う。メンバー同士でケンカして、無能なマネージャーからトラブルを押し付けられて、レコード会社からケンもほろろに断られて、っていうあまりにステレオタイプなロックスターとしての生き方を彼らは演じている。だけど一生演じていれば、それは本物だってことと一体何が違うというのか?

 我々は弱いから、理由を探す。でも本当はそんなもの必要じゃないんだ。俺はロックスターだって言い切れれば、一切の嘘や誇張なく言い切ることが出来るのならば、ギターなんて弾けなくたって、放課後にホウキをかき鳴らせばいつだって誰だってロックスターであることができる。アントニオ猪木がホウキ相手にプロレスが出来るように、つまりいつだって問われているのは、生き様に対する態度に他ならない。

 その後のアンヴィル自身の環境の変化とか含めてすごく意義のあるというか、見ておいて損のない作品だと思いますのでお薦めします。