「聖☆おにいさん」を面白いって言いたくない相沢が選ぶマンガアワード2008

 ※2010年12月18日に追記。読み返して、今だったらこういう書き方はしないと思いますが、削除するのもずるいので補足。要は「聖☆おにいさん」の内容がどうこうということではなく、読まれ方において「聖☆おにいさん」は「面白いから絶対読むべき!」ってオススメされる形ではなくて、普通にフラットな気分で読んでクスッとするようなマンガなのでは?というようなことを当時思っていたのですね。あとは「こんな感じで熱がつくと代理店やら悪い大人やらが寄って来て気持ち悪いことになっちゃいそう」という意識とか。

 ただマンガ好きとして、具体的な作品名を挙げてマンガやその環境を批判するのは違うだろと当時の自分に対しては思っていまして、あと別に、マンガがどんな読まれ方したって良いだろと今では思っています。なので、気分を害されたら本当にすみませんという感じです。日々反省です。(※追記、以上)

 「聖☆おにいさん」が面白くない、と言うつもりは全くないし、実際にモーニングツーが家にあったら飛ばさず読んでくすっと笑うが、それでもやはり「『聖☆おにいさん』って面白いよね」とは言いたくないのだった。「聖☆おにいさん」が嫌いだというわけではなく、だから作者にもマンガにも罪はないが、「聖☆おにいさん」をとりまく空気が嫌いだ。それは「聖☆おにいさん」がものすごく売れているっていう事実とか、「聖☆おにいさん」を好きだって言いそうな人の顔とか、そういうのを全てひっくるめて「『聖☆おにいさん』が面白いマンガとされている空気」がものすごく嫌だ。

 そこら辺の感覚は言葉にすると非常に伝わりにくいものなので難しいんだけど、あなたには分かってほしいと思う。「聖☆おにいさん」が面白いかどうかは置いておいて、「聖☆おにいさん」を面白いって言わないと「分かってないヤツ」のレッテルを貼られそうなこの気持ち悪いヴィレッジ・ヴァンガード的な空気が嫌なんだってことなんだけど、こんな気持ちを誰が理解してくれるというのか? あと理解してもらったからって誰が得をするというのか? そしてその気持ちはただの被害妄想なんじゃないのか? とにかく結論としては、知り合いに「ねえ、聖☆おにいさんって知ってる? あれ面白いよねえ!」と、イエス以外の答えをまったく想定しようとしない全力の笑顔で言われたら、自分にしか分からない苦笑いを作って「あー、知ってる知ってる。面白いよねえ」って言う自分でありたいと思っています。

 そんなひねくれたマンガ好きである相沢が選ぶマンガアワード2008です。2007年12月から2008年12月にかけて雑誌に連載されていた、もしくは単行本が発売されたマンガを対象としてベスト5を選びました。選考基準は「『聖☆おにいさん』の面白さを全力で薦めてくる知り合いには言わないけど、俺はこのマンガが面白いと思う」です。

第1位 綱本将也ツジトモGIANT KILLING

 サッカーマンガの金字塔、と言うよりは、Jリーグマンガの金字塔、という表現のほうがふさわしいかもしれない。自分がジェフユナイテッド市原千葉のサポーターだからというわけではないが、実はJリーグっていうのはちゃんと見ると世間一般の人が想像するよりもずっと面白いんだとかねがね思っていて、そのJリーグの面白いところを的確に取りあげてものすごくうまいこと調理する。ツボの抑え方に関する気のきき方が尋常じゃない。このマンガが週刊モーニングで連載されていて結構な人気作であるっていうのはJリーグファンの自分にとってすごく誇らしいことだ。
 サッカーっていうのはたいへんにロマンチックなスポーツだと俺は思うんだけど、それはサッカーをやっている人間自体がロマンチックだからだ。奇跡を信じる、っていう立場に置かれた人々がピッチに立って、仕事として実際に奇跡を起こす。だから達海監督っていうのは、どこまでも理論派って描き方もあるとは思うんだけど、そうではなく「磨いて輝かないものなんてない」とか真顔で言っちゃうし、世良は世良でうっかり期待に応えちゃうし、広報の女の子だって頑張る。彼ら、彼女らの、奇跡を信じるあり方っていうのはものすごくサッカー的だし、ああそうか、サッカーは人生であるっていうのはこういう意味なのか。
 今年の12月6日、我らのジェフが文字通りマンガみたいに奇跡的な残留を決めたのは、「GIANT KILLING」で奇跡を信じ続けたジェフサポの鑑・綱本将也先生に対するサッカーの神様のご褒美だと本気で思っている。お互い、おめでとうございました!

第2位 東村アキコママはテンパリスト

 このマンガはちょっと、すごかった。腹を抱えて、手に持ったマンガを放り投げてゲラゲラ笑う体験なんていつ以来だろう? 確かに赤ちゃんの言動っていうのは相当面白くて言われてみれば確かにラジカル極まりない、当たり前の話ではあるが、そんな赤ちゃんをマンガの主人公に置いたらこんなに面白くなるっていうのはノーベル賞クラスの発見だと思う。ギャグっていうのは結局視点である、ということを無茶苦茶力技で思い知らされた。
 東村アキコ先生はこんなん描かせたら天下一品すぎるので、是非時空を超えて赤塚が全盛期のころの赤塚プロで働いて、赤塚の言動をギャグマンガとして描いてください。

第3位 東村アキコひまわりっ 〜健一レジェンド〜」

 俺が東村アキコ先生を好きすぎるんじゃなくて、東村アキコ先生が面白すぎるんですよ。特にモーニングで連載している、最近のこのマンガのグルーヴのかかり方っていうのは尋常じゃない。歯ブラシが初めて登場したあのとき、関先生に対してあんなに素晴らしいセリフを言うようなキャラクターになるなんて誰が思う? 歯ブラシに対しての東村アキコ先生の視点について思いを巡らすと、涙が出そうになる。アキコはどうなるんだろう? 健一2号以外とどうにかなるのは考えられないけど、健一2号とここからくっつくウルトラCも思い浮かばない。どっちかが変わらなきゃハッピーエンドはあり得ないけど、その触媒になるのはアキコの描いたマンガであってほしいよね、みたいなことを3時間ぐらい話したい。一人で。

第4位 石黒正数それでも町は廻っている

 今年出た同作家の全1巻の単行本「ネムルバカ」とどちらにするか悩みに悩んでこっちで。このマンガを読んで面白いと思わないマンガ好きはいないんじゃないか。キャラクターも素晴らしいし、ギャグとそれ以外の要素のバランスも程よく、マンガとしての完成度が高すぎる。何がいいとかどれがいいとかっていうんじゃなく、とにかくいい、としか言い様がない。「それでも町は廻っている」の面白さは、「それでも町は廻っている」を読まないと絶対に伝わらない。「それでも町は廻っている」は、そこが良い。それこそがマンガだ。

第5位 いがらしみきお「ガンジョリ」

 いがらしみきおの短編集。表題作も相当気持ち悪いんだけど、人間が細胞の固まりにしか見えなくなる小学生を描いた「みんなサイボー」がやばすぎる。何でこんな気持ち悪い話を描くの? 俺がいがらしみきおの親だったら、息子がこんなこと考えてるって知ったら愕然とするわ。絶対育て方間違ってるってことじゃん、そんなの。絵も何とも言えず気持ち悪いしさあ。気持ち悪いわあ、いがらしみきお。最高に気持ち悪い。気持ち悪くて最高。

次点

 正直今年はあんまりちゃんとマンガを読めていなくて、モーニングとスピリッツとオリジナルとアクションは追いかけて単行本はちょっとだけ、というマンガ好きとしてはたいへん堕落した一年を送ってしまいました。手塚先生に会わせる顔がない。というところでベスト5には入らなかったけど面白かったのを挙げると、ルノアール兄弟ルノアール兄弟の愛した大童貞」、カラスヤサトシ「おのぼり物語」、福満しげゆきうちの妻ってどうでしょう?」、いましろたかし「化け猫あんずちゃん」、三島衛里子高校球児ザワさん」辺りは面白かったと思うのでみんな読めばいいと思う。
 その他、小松左京一色登希彦日本沈没」が、原作が原作だけに気づかれにくいけど実は相当やばいマンガだった。天皇がこういう形でマンガに出てくるのはたぶん初めてなんじゃないか、で、ものすごく必然性はあるしセリフも素晴らしいしで非常に良いシーンだった。スピリッツ誌上では今売ってるのが最終回1回前なんだけど、えらいメタなことになっていて最終回の風呂敷の畳み方が気になりすぎる。あと吉田戦車「スポーツポン」「フロマンガ」は誰も言わないけど毎回クオリティは高いし、何よりネタの尽きなさがすごい。フロをテーマにどんだけ描くんだよ? やっぱりこの人天才だわ、と思って毎回読んでます。

総評

 年末なんだから、マンガが好きなら今年面白いと思った5作品について書くぐらいのことはやってしかるべきだと思う。ので、みんな書いてください。そんなんはすごく読みたいので、書いたらぼくに教えてください。改めて、マンガってのは本当に素晴らしい。世の中に存在する全てのマンガを相沢は愛する!(山田玲司がスピリッツでやってる変なエコのやつだけ除外)