アキレスと亀

 ちょっとしたいくつかの事情がありまして、公開中の映画をユーザーが評価するというような2.0的なサイトをやっているのでここから飛べば見てもらえるんですが、まあ何て言うんですか、サイトとかって大変ですよね。昔「チンポコマガジン」っていうサイトを何人かで作ってたんだけど、あれも速攻で終わったしなあ。100の質問とか作ってたな、何であんなに暇だったんだろうあのころ? あったなー、ケルベロスとか。携わってないけど。桃の紅茶ってサイトの管理人の平井ちょっと堅めさんとかいま何してんだろう? 本当に全然面白くないサイトだったんだよな。懐かしいなあ、あのころ。全然戻りたいとか思わないけど。

 とまあテキストサイト回顧録はこの辺にして、まあそんな映画批評サイト的なことをやっていますので自分でも映画見て色々書いていかなあかんよね、ということで色々新作映画を見て好きなことを書いていくことになりましたのでよろしくお願いします。

 「アキレスと亀」85点

 ものすごく陳腐でありふれた言い方をするならば、「アキレスと亀」は真知寿という人間の半生を描いたコントだった。実際年を取ってからの真知寿(=ビートたけし)と奥さん(=樋口可南子)とのやり取りっていうのは相当笑える。しょうもない旦那と、それについていくキュートな嫁。麻生久美子時代のちょっとカンに触る、私はわかってるわよ感、みたいなのも後から考えると伏線になっている。というか逆か。樋口可南子時代のキュートさ、もっと言えば愚かさが、麻生久美子時代の彼女をアリなものにしている。それは物語としてすごく素敵なことだ。

 麻生久美子で芸術家の嫁と言えば「アイデン&ティティ」を思い出してしまうが、自分はあの映画を見て憤慨した覚えがある。何が憤慨したかって、麻生久美子が可愛すぎるだろ!ということだ。他人に理解されないような目的をゴールとしている人間にこんなべっぴんさんが惚れるかよ!と真剣に思った。峯田はブスに惚れられるべきで、ブスから「私はあなたのこと分かってる」って言われてブスと二人三脚でゴールを目指すべきだとずっと思ってたんだけど、いま思い返せば、彼女はただ単に何も考えてなかっただけなのかもしれない。「アキレスと亀」の奥さんと同じように。

 それはさておき、「アキレスと亀」の真知寿は本当に滑稽だった。奥さんと二人して芸術にかける意気込みや四苦八苦する様子はもちろん滑稽なんだけど、その拠り所になるものが画商の適当なアドバイスだけっていうのがすごい。大体が芸術家の(物語としてありがちな)苦悩っていうのは、本当にやりたいことと売れるものの違いへの悩み、というのが基本線なんだと思うんだけど、真知寿に至っては本当にやりたいことすらない。真知寿は、画家になるという夢を持たされたのだから。悩む必要が全くないにも関わらず真知寿は悩む。

 それがコントとして有効な手法なのは間違いないとして、だけど同時にものすごくリアルだ。本当にやりたいこと、なんてものはあるわけがない。それは売れるものとか、売れているものとか、売れそうなものに対して、後付けの言い訳で出てくるものでしかないだろう。似たようなことを、最近くじらというコメディアンのブログを読んで思ったのだった。

 オレと細かすぎて伝わらないものまね選手権|くじらの遊泳ブログ

どんなに報われない状況でもウソでもなんでもいいから「売れたい」「テレビに出たい」というわかりやすい前向きな姿勢はくずしてはいけないと思うんです

だってそういう人がテレビに出れない、報われないからこそ、その状況が可笑しいわけでしょ

どっちに転んでも笑ってもらえればいいじゃないですか

 絶対に今後冠番組を持つようにはならないであろうコメディアンからこういう発言が聞ける、というのはインターネットがもたらした一番の幸せだと思う。「逆境は必ずしも不幸ではない」って台詞を、やはり人は素直には聞けないものだけど、それを素直に聞かせられる職業っていうのが芸人とアイドルとプロレスラーなんじゃないだろうか。

 ただそれでも、コメディアンとして成功した後のビートたけしっていうのはやはり逆境ではなくて、本当にやりたいことなんて何もないんだ、というようなことをコメディアンという客の笑いだけが評価基準となる場所で戦ってきたビートたけしが思っているのは間違いない。間違いないんだけど、でももっと勘ぐると、だからこそ、そういう本当にやりたいこととか、誰かの評価に左右されない真実とかっていうものに対しての憧れも持ってたりするんじゃないのか? 意外と? でも、そんな風に結論づけてしまっていいのだろうか?

 どこまで考えて答えを出そうとしても、いやもっと奥の方に答えがあるんじゃねえの、みたいに思わせる深さが確かにあって、ああなるほど、延々亀に追いつけないアキレスっていうのは俺か、みたいな。そんなオチ。あと柳ユーレイが柳憂怜に改名することで誰が得をするのかはぼくには分かりません。

 長くてすみません。映画は見終わってから感想を考えるのが一番楽しいといつも思う。