「みっつ数えろ」第一戦・解説 〜「マッスル」と「メロン記念日」とは何か?〜

 唐突ながら本日、2013年7月25日より、有料メールマガジン水道橋博士のメルマ旬報」にてわたくし相沢直の「みっつ数えろ」という連載がスタートしました。この連載はスタイルとしてはマンガ原作のシナリオという形になるのですが、一言で内容をお伝えすると「女子高生がプロレス部を設立しようとするが、危険すぎるという理由で学校から却下され、その代わりに演劇部を設立して演劇だと言い張りながらプロレスを行う」というものです。まだ連載二回ぶんまでしか書いていないのですが、ちょっと面白いものになっているのではと自分では思っておりますので、是非お読みいただけるとありがたいです。わりと真っすぐな青春ものなので、プロレス知らない方でも大丈夫…なはず。たぶん。そんなことなかったらごめんなさいなのですが。

 ご存知ない方のために説明しておきますと、「水道橋博士のメルマ旬報」というのは月額500円で月に2度配信されるメールマガジンなのですが、その分量があまりにも多すぎるため半月で読み終わるかも定かではないという代物でして、連載陣も水道橋博士本人をはじめとして西寺郷太さんや樋口毅宏さんや山口隆さん(サンボマスター)や東京ポッド許可局の皆さんや、などと挙げていったらきりがありません。てれびのスキマさんも連載されております。一度登録してしまえばもちろん毎回送られてきまして、ぼくの連載はともかくとして明らかに値段以上の価値はありますというか完全にありすぎるので、自信をもってお薦めします。こちらのページから、ご購読をお申し込みいただければと。

 …ということで、このブログでは、「みっつ数えろ」の連載と並行してその回のもろもろの解説やら意味合い的なものなどをやっていこうと思います。何のために?っていうとこれはもう明白でございまして、そういうような手でも使っていかないとですね、ほかの連載陣の皆さまに対して勝ち目がないからです。明らかに全連載陣のなかで自分だけが突出して無名であり、しかもその内容が創作ですよ。誰なんだお前、って話ですよ本当に。普通に闘ったら秒殺じゃないですか。じゃあどうするか。普通に闘って勝ち目のない相手に対しては、普通じゃない手を使う、ってのはプロレスの鉄則です。なのでまあ、このブログを使いながら、ちょっとでも「みっつ数えろ」を面白く見せよう、というそういった魂胆です。例えて言うなら「みっつ数えろ」本編がプロレスの興行や試合だとするなら、このブログはプロレス専門誌(紙)というような。併せて読んでいただけると楽しめるように出来ればと思っております。

 ですので以下の文章は、「みっつ数えろ」の第一回を読んでいないとまったく意味が分からないものになります。あくまでも本編の解説なので。というわけでしつこいようですが、「水道橋博士のメルマ旬報」、こちらのページよりご購読ください。「みっつ数えろ」の連載を読んだあとで、以下の文章をお読みいただくと良いのではないかと、このように思っております。というか本当にですね、人助けだと思って何卒宜しくお願いします。良い感じのツイートとかしても、いいんだよ…?

 では7月25日配信、「みっつ数えろ」第一戦の解説です。

 そもそもこの「みっつ数えろ」というお話を書くにあたっては、ぼくの中で強烈に意識している、あるいはそのままなぞっている、二つの偉大な先人がいます。それが今回、連載の序文でも名前を挙げていますが、「マッスル」というプロレス団体と、「メロン記念日」というアイドルグループです。ぼくはこの二つから人生をかけても返しきれないほど多くのものを貰っており、そこに恩返しをすること、あるいは語り継ぐということをやらなければいけないと常々思っていて、それが「みっつ数えろ」という形になっています。

 「マッスル」と「メロン記念日」には数多くの共通点があるのですが、そのなかでも、大きな符号がみっつあります。一つ目は、ともに2010年に活動を停止(休止)していること。二つ目は、いつか日本武道館公演を行うと宣言しながらも、その夢が叶わなかったこと。そして三つ目が、これがすごく重要なところなのですが、才能や運ではなく、人間の努力と執念と業によって数々の奇跡を生み出したこと。ぼくはそれを、客席から観ていました。心と体を震わせ、そして思ったわけです。人間ってすげえ!と。その衝撃は、今もなお心に焼き付いています。あの体験は、ちょっとほかにはないものだと心からそう言えますし、その後のぼくの人生は、「マッスル」と「メロン記念日」のために存在していると言っても、まったくもって過言ではありません。

 「マッスル」も「メロン記念日」も、そのジャンルのど真ん中の存在ではありませんでした。「マッスル」はその手法の鮮烈な独自さによってプロレスの鬼っ子であるという見方をされ続けましたし、「メロン記念日」はその活路を見いだすためにアイドルというよりはむしろ楽器を持たないロックグループという前人未到の獣道を歩き続けました。しかしそれ故に「マッスル」と「メロン記念日」はそのジャンルの本質を浮き彫りにし、あるいはそれを想起させ、そしてひとつのメッセージを伝えていました。そのメッセージを言葉にするなら、たぶんこうなります。つまり、ひとりであることを恐れるな、と。

 いままで誰も歩いたことのない道を歩くということ、あるいはその道自体を造るということ。そういった行為を好き嫌いや向き不向きで選ぶのではなく、仕方ないこととして、覚悟とともに受け入れるということ。その道は険しいかもしれない、そしてその道を笑いながら歩けるほどの、天賦や度量もないかもしれない。それでもそこに自分の歩くべき道があるなら、歩き出すしかない。その無謀な挑戦に、まさにぼくの目の前で身を投じていたのが「マッスル」と「メロン記念日」でした。そしてその二つは、今もってなお、ぼくの中であまりに特別な存在であり続けています。2010年の活動停止(休止)から3年が経った今でもずっと、ぼくは「マッスル」と「メロン記念日」から、大切なものを貰い続けているのです。一切の誇張や冗談抜きで。

 そして「みっつ数えろ」連載第一回の序文にも書いた通り、貰ったものは「ちゃんと返さなくてはいけない」。これは本当にそうなんです。だからずっと、それについて考え、それを出来る限り実践し、それを語り継いでいかなくてはいけない。それがルールだし、それがマナーだと。そうじゃないのなら、一体何を信じれば良いのか?と。

 だから自分なりの、自分だけのやり方で、返していく。「みっつ数えろ」というタイトルや、登場人物が通う学校の名前が「(私立)宮前女子高等学校」なのは、ともにMから始まる「マッスル」と「メロン記念日」に、ぼくが今でも憧れているからです。物語の設定やプロレスに対するアプローチの手法は、「マッスル」に対しての自分なりの宿題ですし、主要登場人物の4名、暁星(あけぼし)あゆみ、白百合みやび、日々野瞳、源五郎丸めぐみは、その下の名前を「メロン記念日」の4人からそのまま借りています。好きだからそうしてるんじゃなくて、そうなっていないといけないから、そうなっている。

 そしてぼくの中では「みっつ数えろ」にはこんなサブタイトルがついています。〜私立宮前女子高等学校演劇部が如何にして日本武道館におけるプロレス興行を成功させたか〜。「マッスル」と「メロン記念日」がともに果たせなかった日本武道館公演という夢は誰かが引き継がないといけないとぼくは勝手にそう思っていて、その夢を「みっつ数えろ」の4人の女の子に託しています。その日は果たしていつやって来るのか? いまのところ見当もつきません。しかしその日が必ずやって来るということだけは決まっています。ですのでどうぞ末永く、「みっつ数えろ」とあの4人の女の子の姿を見守ってやっていただけると嬉しいです。

 …いや本当、こうやって文字にしてみると我ながら、完全に厄介すぎているってのがよく分かります。さすがにちょっとどうかと思う。でも言わせてもらえば、ぼくをこんな風にしたのが「マッスル」と「メロン記念日」なんだから仕方がない。精一杯の愛と敬意を。ぼくはいつでも、あなたたちのぼくです。
 
 ってまあ、いまの最後の一文は、いとうせいこう監訳「マルクス・ラジオ」からの引用なんですけどねってそんなことやり続けてたら延々終わらねえじゃねえか! いい加減にします。すみません。次回はこんなに長くならずに、第一回&次回8月10日に配信される第二回に出てくる、プロレス用語について簡単に解説する予定です。と、最後の最後になりますが、「みっつ数えろ」も連載されております「水道橋博士のメルマ旬報」、こちらのページからご購読申し込めますよ! というわけで皆さま今後とも、何卒宜しくお願いします。