やっぱり心の旅だよ

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福満しげゆき「やっぱり心の旅だよ」

 よくよく考えてみると、こういったマンガを描いている作者の名前が「福満しげゆき」ってのがすごい話だ。「福が満ちる」と書いて「福満」。まるっきりの嘘つきじゃないか。特にビル清掃のバイトの話の満たされなさっぷりたるや尋常ではない。

「彼女らはとても忙しくてね…私らみたいなもんは『見えない』んだよ……」
「へ〜〜!! そんなことがありうるんですね!」

 透明人間妄想っていうのはエロマンガの世界じゃそれこそ「ありうる」話ではあるが、職業格差を根底においた透明人間妄想なんてちょっとすごすぎる。できる女たちも清掃のバイトも、読者である我々からしたら同等の登場人物であるにも関わらず、それでも透明人間的世界が成立してしまっているのはすごい。

 さらにすごいのは、清掃のバイトが気をつかっているというところ。普通だったらこれはレイプしますよ。「気づかないんやったらこいつのアヌスにワシの汚い肉棒をねじこんだるで〜!」とか「スカしたツラして肛門の周りにクソつけとるやないか〜!」とか、要するに「普段ワシらのことナメくさりよって〜!」ってのがバイト清掃員のモチベーションになるのがまっとうなエロマンガのセオリーだと思うんだけど、福満しげゆきのマンガだとそうはならない。むしろ相手の女性に気をつかいながら、最後までビクビクしている。結局主人公はその場で射精しないし。

 登場人物のこういう気のつかいかたというか、どうしたってハジけられない感じっていうのは本当にリアルで、何というか信頼できるマンガである。マンガ(物語)だからといって登場人物の意識が無条件にセオリーに従わなくてはいけないってことはない、そんなものは当たり前の話だが、しかし福満しげゆきのマンガの主人公はだからといってあまのじゃくにあえてセオリーに抗うというわけではなく、常にセオリーについて考えてしまっているという、そこがすごい。彼らはいつでも現状に悩んでいる。それはつまり、人間を描けている、ということではないか?