追悼・橋本真也

 誰かの死についてうだうだ述べることが正しいのか間違っているのかは分からないが、今はただとても悲しい。やはりあまりにも急で、あまりにも早すぎる、あまりにもあっけない死にも程がある。こんなにやるせない死が現実に許されていいわけがないとまで思う。

 何故プロレスを愛することができるのかと言えば、それは全てのプロレスラーたちが物語を見せてくれるからだ。物語の出来不出来は別にしても、その物語は全てのプロレスラーが作り出す。格闘技に出来なくてプロレスに出来ることってのはただその一点で、プロレスラーが作る物語をプロレスファンは享受する。つまり格闘技は作品を生み、プロレスは物語を生むのだ。言ってみれば松浦さんが作品を生み、その他のハロープロジェクトメンバーたちが物語を生むように。

 だけど橋本真也の死に方、そのタイミングってのは、もう本当に、信じられないぐらい物語的じゃない。新日をやめて、ゼロワンがつぶれて、で、これからだった。これから橋本真也がつむぐ物語は、美しいか美しくないかは別にしても、絶対に面白くなるはずだったのだ。だって1億円の借金を背負ったプロレスラーが面白くないはずがない。まだやってない相手だって多すぎる。でも死んだ。橋本真也は最もプロレスラー的なプロレスラーの一人だったし、だから彼はどんな物語だって作ることが出来たはずなのに。

 本当にやるせない。中島らも中島らもの死を死んだ。だけど橋本真也の死は断じて橋本真也の死なんかではない。最悪だ。物語のかけらもない。素晴らしいプロレスラーだったくせに、橋本真也は物語のまるっきり欠けた死を死んだ。そんな物語の欠如を含めてそれが橋本真也の死なのだという小賢しい論理で納得できるようなら、俺は最初っからプロレスなんか見てねえ。橋本真也は、感動をありがとう、と言えるほどの感動を与えないままに死んだ。その感動は、これからの橋本真也が与えてくれるはずの感動だった。この死は何の希望もない。最悪だ。死んでほしくなかった。

 うまいことなんて言う気もおきない。破壊王のご冥福を、出来る限り、精一杯お祈りします。