前田日明

アントニオ猪木について)
どんな飲んだ暮れでどうしようもない親父でも親は親ですよ。まあ今はこっちから勘当して絶縁状態なんだけど。でもね、子供はね、親の悪口を言ってもいいんですよ。親が自分で気付かない欠点を、世間に言われるほど恥ずかしいことはないんですよ。子供にとっては、親の悪口を他人に言わせたらダメなんですよ。

 この愛憎! 愛が深いからこそ憎み、憎しみが深いからこそ愛するのだと、言葉にしてしまうとあまりにも陳腐だがしかし同時にあまりにも強く心に刺さる。「悪口を他人に言わせたらダメ」という言葉の、なんと身勝手で、なんと切なく、またなんと醜く美しいことか! 自分のために戦う、などと語るそこらの自称プロレスラーとは次元が違う。前田日明という男は常に自分自身を見つめる視線と、つまり自分自身を拘束する『倫理』と戦う。だからこそあまりに人間臭いし、それでいて宗教でありえるのだ。

 今回の週刊ゴングの「巻頭ブチ抜き31ページ前田日明大特集」には最大限の賛辞を送りたい。週プロが数ページのインタビュー記事であるのに対してこの特集の厚さは素晴らしい。消費者は分かりやすい方を選ぶ。そしてときに生産者の仕事とは、火のないところに煙を立てる仕事である。