「コロポックル」

コロポックル花輪和一
ASIN:4063348946

「よし! これで完成だ!」

 C62ニセコ北斗星(ともに鉄道の種類)の煙が交差したため、コロポックルがこう叫ぶのである。このセリフ以前に「C62ニセコ北斗星の煙が交差したら完成する」などといった言及はどこにもない。つまりこの瞬間(少なくとも読者にとっては)突然に作品内のルールが生まれ、同時に施行されるのだ。
 ほとんどの(商業ベースにおける作品について)妖精潭とは、あくまでも妖精が異物なのであり、その異物と人間世界での常識との差異が楽しまれるわけだが、この「コロポックル」がすごいのはそれ以上に作品世界でのルールと常識との差異がはなはだしい点にある。コロポックルも異常なのだが、明らかにそれよりも花輪和一の発想や手法が異常で素晴らしく非常に自分勝手なため、手垢のついた表現を使うならば「夢を見ているような気分になる」。
 この視野の狭さ、自由度、身勝手さはちょっと相当なものがある。

「よし! 蜜のジュースで空中かんぱいしよう!」

 空中かんぱいって何だ。そんなかんぱいの仕方は少なくとも地上には存在しないわけだが、それでもコロポックルたちは空中かんぱいをするのである。花輪和一が空中かんぱいというかんぱいの方法を思いついてしまったから、という理由のみを根拠として。