「みっつ数えろ」第三戦解説 〜プロレスをずっと追いかけられるのは何故なのか〜

 本日2013年9月10日、有料メールマガジン水道橋博士のメルマ旬報」にて拙作「みっつ数えろ」の連載第三戦が配信されました。みなさまお読みいただけましたでしょうか。今回はみやびの自宅にあゆみと瞳がお邪魔して、色んなことが起きる回。みやびママがすごい良い感じの人物なので、助かりました。というかまあ、このお話には、今後も良い感じの人物しか出て来ないような気もしますが。

 さてここからは、本日配信の「みっつ数えろ」を読んでいないとまるっきり意味が分からないエントリになりますので、ご購読はこちらのページからお願いします。「みっつ数えろ」とはざっくり言うと「女子高生がプロレス部を設立しようとするが、危険すぎるという理由で学校から却下され、その代わりに演劇部を設立して演劇だと言い張りながらプロレスを行う」というお話のマンガ原作です。プロレスを知らない人でも楽しめるようなわりと真っすぐな青春ストーリーとして書いてるつもりですが、そうでもなかったら申し訳ございませんということで、何卒。

 で、今回の話を書くときに一番迷ったのは、みやびパパの描写をどうするか、ってところだったりしました。そもそも「みっつ数えろ」は2年前に自分で書いたものをベースにしていて、当時もみやびパパは元プロレスラーでケガをして車椅子に乗ってるって設定だったりしたのですが、改めて書くうえで、この設定はやっぱり重すぎないか?ってのはあって。そこに対する拒否反応は、書くほうとしても、いちばん最初の読者としても、やっぱりすごくあったりするわけです。

 ぼくが「みっつ数えろ」を書くうえで一番大切にしていることは、プロレスを全く知らない人が「プロレスってかっこいいな!」「プロレスラーってかっこいいしかわいいな!」って思ってもらえることを第一に置いています。そのうえで「プロレスラーがケガをする」って、やっぱり、描くことはすごく難しい。事実としてそれがあるのは知ってるけど、でも、それを伝えることには抵抗があって。少なくとも、もうちょっと先で良いんじゃないかって判断も、自分の中で選択肢としてはありました。

 ここは本当に自分の中でも何度もありかなしかを考えていたのですが、でも、2013年、ある出来事が起こりました。それは、星川尚浩選手の、デビュー20周年記念セレモニー。試合中に大けがを負った星川選手は、今でもリハビリを続けているのですが、彼はリングに自分の足で上がり、丸藤選手から3カウントを奪いました。それは、事実として、後楽園ホールに集まった大勢の観客の前で行われたのでした。

 正直なところを言うと「みっつ数えろ」は、少なくともプロレスにおいて、新しいことを描こうというつもりは一切ありません。プロレスから貰ったものを、正しく描くことだけを目的としている作品です。であるならば、起こったことは描けるはずだし、描いたほうが良いんじゃないかと。だってそれは、本当に起こっている出来事なんだから。過剰に感動を乗せるつもりはないし、むしろそこは薄める方向で描きたいけど、でも事実は描きたい。あのセレモニーで、全員が笑顔だったあの瞬間は、やっぱり描きたかったりするのですよそれは。泣けるから、じゃない。その景色が、とても素敵だったのだから。

 というような経緯を踏まえて、みやびパパは現在もリハビリ中のプロレスラーです。ハヤブサ選手と星川選手がいるから、みやびパパは今でもリハビリを続けています。そして、絶対にへこたれることはないのでしょう。だって、プロレスラーなんだから。あゆみは言います。ただのプロレスファンとして、何の責任もない言葉だけど、その言葉はやっぱり真実なんだと、ぼくはただのプロレスファンとしてそう思います。

「みんな、生きてればさ、間違うことも沢山あるけど。でも、それを正しく直してくれるのが、プロレスなんだよ!」

 プロレスは、ただのスポーツじゃない。ただの娯楽じゃない。道しるべなのです。だからぼくは今でもずっと、プロレスを見続けている。そんなジャンルは、ほかにはちょっと、そんなに多くはないんじゃないかって思ったりもするのです。

 それではまた次回。まだ「水道橋博士のメルマ旬報」読んでおられない方で興味もっていただいたなら、ご購読はどうぞこちらのページから。以上、「みっつ数えろ」第三戦の、お粗末ながら解説でした。エレガントに、さよなら。