相沢が選ぶマンガアワード2011

 去年に引き続きマンガアワード2011っていうのをやってるわけですが、まあ何のかんの言って、正直なところ投票だとか集計だとかそういうのがやりたいわけではなく、好きなマンガについて語り合いたいわけですよ。お互いに、一方的な形で。「2011年に自分が読んだマンガの中でベスト5を決める」っていう遊び、それ自体が本当に面白いから、やってるわけです。なのでみんな、遊んでみて、それでもし気が向いたらどんな結果だったか教えてください。今年は1月9日(月・祝)いっぱいまで受け付けますので、三連休のお暇つぶしにはもってこいかと思います。

 というわけで、相沢が選ぶマンガアワード2011、こんな結果となりました。

1位 石黒正数「外天楼」 Amazon

 今年はもう、どう考えたって、1位はこの作品以外あり得ない。「マンガの単行本」というジャンルの特性を熟知したうえで、その壁を飛び越えていく、というか、飛翔していく、鮮やかさと軽やかさ。この純粋な新鮮さをリアルタイムで感じられたということは、マンガ読みとしてこの上ない歓びです。ネタバレは避けたいので詳しい話はさて置きますが、この作品は今後10年語られ続けるべきだし、明らかにいま、マンガというジャンルの最先端に屹立している。マンガはここまで来ましたよ、というメルクマールとしてこの作品は絶対読んでおいたほうが良いと思うし、マンガってこんなに面白いことができる余地がまだ残ってたんだ!という驚きが詰まった一冊です。まだ読んでない人がいたら、悪いことは言わない、絶対に読んだほうが良いです。いま現在、唯一存在する「新本格マンガ」として、とにかく一読をお薦め致します。

2位 宮崎克、吉本浩二ブラック・ジャック創作秘話」 Amazon

 手塚本に外れなし、というのは自分が常々言っている格言なのですが、この手塚マンガの当たりっぷりは半端じゃない。努力する天才の姿を、ここまで描いてくれて、こんなもん読んだ人全員が必死に生きようって思っちゃわざるを得ない。自分はすごい落ち込んだときとかには必ず「ストッパー毒島」の「でも練習しかない!」ってところを読んで号泣して明日を生きるという宗教的な儀式を行っているのですが、このマンガはそれに匹敵するほどのドーパミンコミックだと言って過言ではないでしょう。手塚先生はもちろん、周囲の編集者の生き様も含めて、生きるとは必死になることだ、という至極当たり前のことを痛感させられる名著でした。
 あと今年の吉本浩二先生は「日本をゆっくり走ってみたよ」も含めて、ちょっと神懸かってた。地方のマッサージでヌいた話をあれだけ童話チックに描けるのは吉本先生だけ! 二代目水木しげるの名を継いでほしいと、心から願っています。

3位 ジェントルメン中村「プロレスメン」 Amazon

 ミスター高橋本以降のプロレスマンガとして、まさしくど真ん中の激名作。やっぱりプロレスラーってすげえんだな!と、創作物から教えられるという珍しい体験をしてしまった。正直、ミスター高橋本以降のプロレスマンガの「ケツが決まってる前提」とか「ショーだからこそプロレスは素晴らしい」っていう、中途半端な表現には心底辟易しているところもあり、これだけ真正直なプロレスマンガと今出会えるってことが嬉しくて仕方ない。プロレスは、ショーだから素晴らしいんじゃなくて、頭がおかしいから素晴らしいんだよ!という、当たり前の真実をピュアに語ってくれている一冊。ハッキリ言って「KAMINOGE」はジェントルマン中村先生に新連載を依頼すべきですよ! I編集長なら絶対そうしてますよ!

4位 片山ユキヲ、東百道「花もて語れ」 Amazon

 色んなところで話題になってたので、1巻を読んで、ああ朗読ってジャンルは新しいよなあ、なんて、2巻もまあ、なるほどねえ、って感じで、今年出た3巻、号泣。この展開は読めない、というか読めるわけないし、作者もそこまで考えてなかったんじゃないかとさえ邪推してしまう。この登場人物がこんなに大事なキャラクターとして活躍してくれるなんて…。嗚咽ですよ、本当に。これもまた、マンガにしかなし得ない表現をしてくれてて、これから確実に爆発してくれること必須。早く6巻ぐらいが読みたい、って思ってます。

5位 志村貴子放浪息子」 Amazon

 何を今更という話ですが、ノイタミナで取り上げられるまで読んでなかったんです、すみません。したら何、この超いいやつ! 言ってよ〜、読むんだからさ〜。正直、いまの連載を追うにも至ってないんですが、初期のころのを初見で読んでびっくりするぐらい感動したので、5位に入れさせていただきました。アニメきっかけで素敵なマンガに出会えるというのは、非常に素晴らしいことだと思います。

 そして例によって、5位って縛りじゃ入り切るわきゃあないので、6位以下はこんな感じで。

6位 松田洋子「ママゴト」 Amazon
7位 とり・みき「クレープを二度食えば」 Amazon
8位 井上文月「ZNTV東京支局」(アフタヌーン四季賞2011夏、四季大賞)
9位 石黒正数それでも町は廻っている」 Amazon
10位 花沢健吾アイアムアヒーロー」 Amazon
次点 天久聖一タナカカツキ、無事故無事雄「ブッチュくん全百科」 Amazon

 6位から次点まで、本当に超面白いです。「ママゴト」は1巻がピークじゃないことを祈りつつ、それ以上に、出てくるみんなが今よりもちょっとだけ幸せになってくれることを祈りつつ。「クレープを二度食えば」は、復刊という制度の素晴らしさに敬意を込めて。「ZNTV東京支局」は本当に地肩を感じるマンガで、次回作に超期待しています。「それ町」は最新刊の「歩く鳥」が完全に素晴らしいので相変わらず読んで!って思いつつ「アイアムアヒーロー」はなんでこんなマンガ書くの? 目的は何なの?って問いつめながらもすげえ面白い。「ブッチュくん全百科」は次点になってますけど、こんな面白いマンガ表現が存在してるんですよ!っていうことを、若い人に教えていこうと思います。もうおっさんなので。本当、マンガってすげえな、ってことは、何度も何度も痛感しながら生きております。

 2011年も、マンガは最強に面白かったです。こんなに面白いものをくれて、ありがとうございます、って、言いたいことなんて、それだけなんですよ。マンガは本当に面白い。ぼくはマンガを好きになれて、本当に良かったです。