マッスルハウス4

(注:この日記は07/05/04に行われた「マッスルハウス4」@後楽園ホールの興行に関する記述を含んでいます。今後サムライやDVDなどで「マッスルハウス4」を見る予定の方がいらっしゃいましたらこの日記は読まずに捨ててください)

 まず始めに言っておきたいのが、マッスル(プロレス)とメロン記念日(アイドル)をエンタテインメントという土壌に乗せたとき、その二つはまったくもって同じものであるということだ。違いといえば股間についているのがおちんちんかおまんまんかってことぐらいであり、しかもその違いにしたって斉藤さんなんてのはこれはもう歩くおちんちんみたいなものなのだから(良い意味で)、もはや何ひとつ違わないと言ったっていい。マッスルはメロン記念日であり、メロン記念日はマッスルである。感動を超えた感激。しょんべんだだ漏らし一歩手前の笑いと涙。そこは凡人ゆえの愚かさとダサさとかっこ悪さが丸見えの底なし沼だが、しかし凡人だからこそ、凡人にしか到達できない決意と夢と奇跡がある。2007年5月4日、後楽園ホールで相沢は確かに奇跡を目撃したのだ。

 興行の内容に関しては、とりあえず簡潔にまとめられたページがあるのでご参照されたい。要は「ヤラセやねつ造とかで世間は色々たいへんだから視聴率の取れるスポーツであるフィギュアのルールをプロレスに持ち込む」って縦軸があり、もうこの段階で相当おもしろいことになっているわけども、そこから何やかんやあって、最後にマッスルの主人公であるマッスル坂井(あまり強くない)と鈴木みのる(超強い)が戦うことになる。マッスル坂井はあまり強くないので、鈴木みのるにボコボコにされる。マッスルの演出手法であるスローモーション(試合中に突然リング上が暗くなって荘厳な音楽とともに全員がスローモーションの動きになる)にも付き合おうとしない鈴木みのる……。だが、かつてアンドレからシュートを仕掛けられた前田日明がリングサイドの藤原に「やっちゃっていいんスか!?」と叫んだように、マッスル坂井は叫ぶ。「プロレスやらせてください!」と……。だがマッスル坂井はやはり鈴木みのるにケチョンケチョンにやられてしまう。鈴木みのるはマッスルのメンバーに対して、そしておそらく我々観客に向けて叫ぶ。「おめーらプロレスナメてんだろ!(略)適当にやるんじゃねえ! 命賭けろ!」と……。

 湿っぽい空気が会場を包み、我々観客はそこで気づく。ああ、やはりマッスルはプロレスの皮をかぶった演劇でありコントなのだと。演劇でありコントなのだから本当に強いプロレスラーが来たら負けてしまうのだと。鈴木みのるは強い。だから勝った。それは仕方のないことだからこの試合の勝ち負けには目をつぶって、これからはマッスル坂井がプロレスラーとして成長するさまを見届けることにしようと、こういう流れになるんであれば相沢はそこまでマッスルにシビれることはなかっただろう。実際ここまでの台本であればマッスルじゃないプロレス団体にだって書けるだろうし、それこそどこかの劇団にだって書けてしまうに違いない。でもこの話には続きがあって、それはどう考えても、間違いなくプロレスにしか描くことのできない奇跡だった。

 「命賭けろ!」と叫んだ鈴木みのるは、そのまま帰って行くのかと思いきや、あろうことかきびすを返し、フィギュアの採点場へ向かう。そしてマッスル坂井を呼び寄せる。鈴木みのるレスリング技術は200点の採点! 前代未聞の高得点! 当然優勝! こうしてマッスル坂井鈴木みのるのペアは、みごと世界フィギュアプロレスリング2007を制するのであった!
 
 実際の話、こんなに気持ち悪い笑顔になってしまう瞬間はそうそうない。はじめてオナニーしたときだってこんなに気持ちよくなかった。「俺の信じてたプロレス」が奇跡の大勝利をおさめたときの歓びを、愛しさを、この誇らしさを、いったいプロレス者以外の誰に伝えればいいんだろう? 桜庭がホイスの道着をつかんでボコボコにしたときのあの絶叫、愛するバトラーツ石川雄規が場外で村上と渡り合ったときのあの熱狂、前田日明引退試合に世界最強の男カレリンを招聘したときのあの興奮。もしもこの瞬間に死んだとしても、俺の人生は最高に幸せな人生だったって満面の笑みで自慢できる、そんな何かに出会えることはそうそうないんだ。2007年5月4日、後楽園ホールで行われた「マッスルハウス4」はそんな数少ないそれであり、相沢をその場に引き合わせてくれた全ての小さな奇跡に感謝したい。

 プロレスとは何か? それは、リングの上ではどんな奇跡だって起こりえるし、むしろ奇跡なんて起こって当然なんだって愚かにも信じてしまった男や女が半裸で殴り合うひとつの祭りだ。それはスポーツじゃなくて演劇でもない、どうしたってプロレスなのだ。プロレスのリングは勝ち負けなんかを競う場所じゃなくて、よくできたストーリーを楽しむ場所でもない、人間が人間として生きるためにどうしても捨てることのできない信念を、情念を、不格好な魂をさらす場所なのだ。いったいどこの誰が好き好んでプロレスを愛したと思う? それも猪木も馬場もいないこんな時代に! 俺たちは好き好んでプロレスを愛したんじゃない、本当はプロレスなんて見たくないんだ! 本当はスキーサークルとかに入って女の子と普通の話(髪型かえたとか単位が足りないとかの話)をしたかったんだ! だけど何かのはずみでプロレスにやられて、だから本当はプロレスなんてダサくてかっこ悪いものなんてバカにしていたかったのに、それでも愛してしまったんだ、プロレスなんて大嫌い! でもやっぱり、最高に素晴らしいんだよ、プロレスは!

 言葉遊びじゃなくて、「マッスルハウス4」はあのとき確かにプロレスだった。それは俺の愛するあの熱狂がプロレスだからという意味においてだ。マッスルも、メロン記念日も、前田日明も、全部プロレスなのだ。全て頭文字はMであり、MはそのままミラクルのMだ。信念も、情念も、不格好な魂も、好き好んで手にしたわけじゃない。だけどそれは確かにそこにあって、それは全て奇跡の種だったりするのだ。ダサくてかっこ悪くて満たされない過去の自分は、結局のところ全てが今の自分と繋がっていて、明日の自分を奇跡の主人公にするだろう。大学受験当日、会場のそばの喫茶店週刊ファイトを広げ、井上編集長のコラムを読みながら、世界を呪っていたあの日の俺に俺は言おう。「お前の人生は大丈夫だ! 2007年の5月4日、後楽園ホールに奇跡が待ってる!」と。そして付け加えよう。「裏原宿プロレスって言葉の意味? それは知らねえ!」と。

 マッスルに、最大限の感謝と愛を。素晴らしかった!

<追記>
 完全に自分が想定するプロレス者に向けて書いてしまったが(そんな人間が2007年現在どれだけ生存しているというのか)、マッスルはプロレスを知らない人でも楽しめる超絶的おもしろエンタテインメントである。というかこれだけ鬱陶しい長文を書いていてなんだが、相沢も普段はほとんどプロレスは見ない。棚橋も中西も寒すぎる。マッスルとは、所謂プロレスと一切関係ないところでの最高のストーリーと、そこからどうしようもなくハミ出てしまう熱に溢れた信じがたいほど良質の見せ物であり、まさしく全人類必見であると言えよう。次回は9月開催、そのうち武道館でもやるはずなので、みんな行こうぜ! 本当に面白いぞ!

 マッスルホームページ
 マッスル坂井の日記(泣ける!)